館蔵資料の紹介 1991年
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『万国地誌略一』とその版木
明治7(1874)年
文部省
22.2cm×14.2cm
(左)扉 (右)本文部分 ※同部分の版木(準備中)
写真は明治7年、師範学校編集、文部省刊行の『万国地誌略 一』と、その版木の一部です。本書は『日本地誌略』(文部省刊行の最初の小学校用日本地理教科書)と関連させて、文部省が小学生用に刊行した最初の世界地理教科書です。
編集に当っては、本書の凡例によると、「編中専(もっぱ)ラ米人コルトン氏の学校地誌並ニ米人ミッチュル氏ノ近世万国地誌ヲ撮訳(さつやく)シ、又英人ゴールドスミッス氏の地誌、及連邦誌略等ニ因(より)テ、之ヲ編纂セリ、……」とあり、外国で刊行された複数の地誌をもとにしたもので、当時盛んだった特定書をそのまま翻訳したものと違って、日本の小学生の教科書として、内容に系統性をもたせ、世界を包括的に捉えたわかりやすい地理書となるよう、予め計画と方針をもって作成したことが窺えます。この点が本書の特色です。凡例の文末に「紀元二千五百三十四年四月 小沢圭三郎識」とあるところから、おそらく編者は小沢圭三郎で、紀元年は明治7年に当るため、その年の4月に出版されたものと思われます。
本書は全3冊6編の構成で、内容は亜細亜(アジア)、阿弗利加(アフリカ)、欧羅巴(ヨーロッパ)、北亜米利加(キタアメリカ)、南亜米利加(ミナミアメリカ)、大洋州(たいようしゅう)の順序で、各州の総論(位置、広さ、人口など)を述べ、次に各州内の各国の地誌(国境、地域、位置、面積、人口など)、地勢(山、河川、運河など)、気候の特質を記述し、更に、首都の位置、人口、海港、特産物、輸入品などや、著名な都市の歴史的沿革の概略を述べています。また、挿絵を豊富に使い、主な都市の風景、その土地の特色ある生活の様子、人種的特徴などを分り易くしています。なお、日本については、前述の『日本地誌略』が既にあるということで省略し、亜細亜編に国名だけを載せています。
写真の版木(一部虫損、ひび割れあり)はエジプト本書の阿弗利加編埃及(エジプト)の記事のうち、「カイロ府ノ図」があるページで、裏面も版になっています。材質は桜で、多少粘りのある木質部を使用し、図の線や文字の形に教科書の使命を心得た、ていねいな彫りが見られます。
本書は文明開化期の新知識の吸収に力を注いでいた当時、数多くの小学校用外国地理教科書が出た中で代表書として扱われました。