館蔵資料の紹介 1991年
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『百科全書教導説』箕作麟祥訳
明治8(1875)年
大阪師範学校翻刻
22.5×15.0cm
(左)表紙(右)緒言と総論
写真は箕作麟祥訳『百科全書教導説』で、明治6年に文部省より出版されたものを2年後に大阪師範学校が翻刻したものです。この書はイギリス人チェンバーの著である百科全書『Chamber's Encyclopaedia』92編200冊の中から児童教導の説のみを訳したもので上下二篇から成り立っています。
当時は多くの教育および教授に関する書物が翻訳され、特に文部省がこれに力を入れました。わが国の混沌とした教育界にとって欧米の教育学説は、当時はまだ体系的な原理や主義を述べたものではありませんでしたが、急場の策として重宝がられ、教育の指針ともなりました。この書はそのはしりで、文部省出版の翻訳教育書としては最初のものでした。
本書の凡例には、この書は巻数が多いので、一篇ごとに広く英学者に分担して訳させ、洋教や回教の説はわが国では使わないので訳さず、目次にその篇名を記して原本の体裁を示すことにしたとあり、また、その緒言には、この書は小学校教導の法を概論したものであるが、同時に世の父母に対し、子どもの教育上欠くことのできない道を明らかにし、その要を知らせるためのものであると述べています。なお、教導の原語である 「エヂュケート」はラテン語の「エヂュカーレ」に由来し、その本義は誘導の意であるとし、「外力ヲ以テ其心ノ能力ヲ誘導シ之ヲ活動セシメテ巧妙ニ至ラシメ……」と説いています。これはわが国の「教育=education」の語源的説明をした最初のものです。
本書の内容は、上篇には、「総論」の外に教導の方法を「体の教」「道の教」「心の教」の3つに分けて述べ、下篇で更に「心の教」を生後-2歳(家庭)、2歳-6歳(幼童学校)、6歳-14歳(訓蒙学校)の3期に分けて説いています。
この教導説は教育のあり方を通俗的に説いていますが、教育を体育、徳育、知育の3分野に捉えている点で、体系的な教育学説へ歩みを進める素地となりました。
訳者の箕作麟祥は卓越した語学力を以て知られ、本書の訳の難解な部分は彼が担当し、新訳語も生み出しながら完成させました。
彼は翻訳活動によって明治の教育界や法曹界に多大な貢献をし、特に教育面では、西欧先進諸国の学校制度を調査、紹介し、わが国の「学制」の起草に重要な働きをしたことでも知られています。