第104回 談話会
(2015年8月17日)
最大エントロピー法から構成される脳の機能的結合ネットワークについて
増田 直紀 氏
(ブリストル大学 Department of Engineering Mathematics 上級講師)
今回の若手の会では、ブリストル大学の増田直紀先生に「最大エントロピー法から構成される脳の機能的結合ネットワークについて」という題目でご講演をいただいた。
近年、脳内の特定の一領域の機能を同定することを超えて、脳領域間の機能的結合を探ることで、脳の働きを領域間ネットワークのレベルから捉えようとする研究が盛んに行われている。しかし、これまで機能的結合を算出するため主に用いられてきた『脳活動の時系列データどうしのピアソン相関』では、実際にはA, Bという2領野間に直接的な解剖学的結合がない場合でも、この2領域が第三の領野からA←C→Bのように共通の入力を受けている場合に「A-B間に機能的結合あり」と判断される偽陽性が生じうるという問題などがあった。本講演では脳内ネットワークの機能的結合の解析の代替手法として『最大エントロピー法』を適用した研究をご紹介いただいた。
一つ目の研究では、最大エントロピー法の理論的説明に続いて、代表的な脳内ネットワ ークであるdefault mode network および fronto-parietal networkの機能的結合パターンを説明する際に、上述のピアソン相関を含む様々な説明モデルに比べ最大エントロピー法を使用した場合に解剖学的な結合パターンと最も整合性の高い推定が行われるという実験結果が示され、機能的結合の解析における最大エントロピー法の優位性が説明された。
続く二つ目、三つ目の研究では、最大エントロピー法を用いた機能的結合解析の応用例として、「睡眠」と「双安定的な知覚現象 (bistable perception)」のデータ解析の研究をご紹介いただいた。「睡眠」の研究では、default mode network および fronto-parietal networkが、睡眠レベルの変化 (レム睡眠/深睡眠) に伴って、逆パターンの機能的結合の増加/減少パターンを示すという興味深い知見が示された。一方、「bistable perception」の研究では、視覚入力としては一定のドット刺激が、脳の知覚によって主観的に右回りに見えたり左回りに見えたりして切り替わるという現象が、脳内の関連7領域の活動状態のパターンをネットワークとして表現し、そのネットワークが取り得るエネルギー極小状態 (谷) の特徴から判別・説明可能であるという非常に刺激的な知見をご紹介いただいた。
講演中、聴講者からは活発な質問がなされ、白熱した議論からは講演で紹介された先進的な研究領野が持つ幅広い潜在的可能性への関心の高さがうかがわれた。
日 時 | 2015年8月17日(火)14:00-16:00 |
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場 所 | 玉川大学 視聴覚センター106教室 |
報告者 | 蓬田幸人 (玉川大学脳科学研究所 嘱託研究員) |