談話会報告

第103回 談話会
(2015年6月9日/私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 第14回 講演会)

社会的排斥への敏感さ(sensitivity)とは何か?―多面的アプローチ

川本 大史 氏
(東京大学大学院総合文化研究科/日本学術振興会特別研究員(PD))

今回の若手の会では、東京大学総合文化研究科の川本大史先生に「社会的排斥への敏感さ(sensitivity)とは何か?―多面的アプローチ」という題目で講演をしていただいた。

社会的動物であるヒトにとって、他者との関係は重要な意味がある。進化心理学の観点では、他者からの排斥を敏感に検出することは生存や生殖に有利であると考えられている。一方、他者からの拒絶に対する予期不安が高い個人(拒絶感受性)は社会的排斥を敏感に検出するが、心理的不適応に陥ることが知られている。今回の講演では、この矛盾するように見える2つの知見の調和を目指した一連の研究について話しが進められた。

拒絶感受性は防衛的反応、検出力、過覚醒の3つを統合したものとされている。しかし、検出力は進化心理学的観点と拒絶感受性理論の間で矛盾した知見を示している。そのため、拒絶感受性は社会的排斥の検出力を反映しているかどうかについて、これまでの研究で明らかにしようとしてきた。さらに、検出力になんらかの利点があるかについても検討された。研究は、質問紙調査、事象関連電位ERP実験、行動実験、fMRI実験を通じて行われた。

質問紙調査の結果から、拒絶感受性と検出力との間に関連がないことが示された。また、検出力の高い個人は受容経験の知覚が高かった。嫌悪顔に対する反応を調べたERP実験の結果から、拒絶感受性と検出力との間に関連がないことが再度示された。信号検出理論を援用した行動実験の結果においても、拒絶感受性と検出力との関連は認められなかった。検出力の利点を検討したfMRI実験では、前部帯状回背側部(dACC)によって反映される検出力の個人差は、排斥されている最中の右腹外側前頭前皮質(rVLPFC)と関連が認められた。具体的には、dACC活動とrVLPFC活動との間に正の関連が認められた。さらには、rVLPFCの活動量の多さは、排斥された後の攻撃性と負の関連が認められた。一連の研究から、拒絶感受性は社会的排斥の検出力を反映していない、拒絶感受性は「別の側面」の社会的排斥に対する敏感さを反映している(判断の歪み)、社会的排斥を適切に検出することには利点がある(排斥された後の攻撃性抑制)という3点の可能性が示唆された。

質疑応答では白熱した議論がなされた。社会的排斥に関する研究の今後の発展が気になるものであり、有意義な講演であった。

日時 2015年6月9日(火)15:30-17:00
場所 玉川大学 研究・管理棟 507会議室
報告者 仁科 国之(玉川大学大学院脳科学研究科 修士課程2年)

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