第99回 談話会
(2014年10月9日/私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 第10回 講演会)
ゴキブリにおける条件付けした記憶形成の抑制現象
細野 翔平
(玉川大学大学院 農学研究科 博士後期課程)
今回の若手の会では、玉川大学大学院・農学研究科の細野翔平氏にご講演いただいた。
内容は、細野氏が北海道大学・修士課程時代に行われていた研究で、ワモンゴキブリを研究材料とし、学習行動がどのような条件で成立するのかを検討した行動実験の解説であった。
学習は、ゴキブリのような昆虫から、我々ヒトであっても生存を有利にするためにかかすことはできない。そのため学習に関わる脳メカニズムの解明は、最も重要な研究課題のひとつである。細野氏は、昆虫の中でも電気生理学的な実験が可能で、且つ、解剖学的な知見が詳しく調べられているワモンゴキブリを研究材料とすることで、この課題に大きく貢献できると考えた。そこで、ゴキブリの記憶形成がどのように成されるのかを調べるために、その一歩目として、行動学的にゴキブリの学習要件を調べた。
細野氏は、条件刺激(CS)に匂いを、無条件刺激(US)にスクロースを用いて、様々な制約(条件づけ回数、条件づけ間隔)の下でゴキブリに条件づけを行った。その結果、長期記憶として成立するための条件づけの制約を見つけた。しかし、実は、その制約の下で条件づけを行ったとしても、その条件づけ後特定の間隔をあけ再び条件づけを行ってしまうと、長期記憶の形成が抑制されることがわかった。すなわちタイトルにもあるように「ゴキブリにおける条件付けした記憶形成の抑制現象」を発見した。この現象は、他の昆虫では確認されておらず、本実験を行ったことによって初めて発見された大変興味深い現象である。
本現象は、学習に関わる脳メカニズム解明のためにも貴重な示唆を与えることが考えられる。今後、遺伝子解析や、解剖学的知見に基づく電気生理学的実験など様々な実験手法を駆使することよって、本現象のメカニズム解明が期待される。
日時 | 2014年10月9日(木)16:00-18:00 |
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場所 | 玉川大学 研究・管理棟 507会議室 |
報告者 | 野々村聡(玉川大学脳科学研究所) |