談話会報告

第98回 談話会
(2014年9月5日/私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 第9回 講演会)

ヒト以外の霊長類における向社会行動を支える心理メカニズム -フサオマキザルの行動データに着目して-

瀧本 彩加 氏
(東京大学大学院 総合文化研究科/日本学術振興会特別研究員(PD))

東京大学大学院総合文化研究科の瀧本彩加氏に、「ヒト以外の霊長類における向社会行動を支える心理メカニズム−フサオマキザルの行動データに着目して−」というタイトルでご講演をしていただいた。  

向社会行動は、ヒトを特徴付ける行動の一つとして考えられてきたが、近年の研究はヒト以外の動物にも向社会的行動がみられることを示している。今回の発表ではヒト以外の霊長類を対象とした実験結果からヒトの向社会行動との類似点や異なる点に触れ、向社会行動を支える基盤や進化について話が進められた。

フサオマキザルを対象とした実験から、向社会行動が相手の社会的順位に応じて行われることが報告されており、相手に応じて柔軟に振る舞うという点ではヒトと類似している。一方で、ヒト以外の霊長類の向社会行動は相手による要求行動に基づいて行われており、おせっかいをやくことはほとんどないという。この点はヒトの向社会行動の特性を説明する上で重要な意味をもつと思われた。

こうした向社会行動を支える心理メカニズムについて、公平性や共感(情動伝染)の役割に焦点を当てた提案がなされていた。前者は向社会行動を抑制するメカニズムを支え、後者は向社会行動を促進するメカニズムを支える。たとえば、不公平感は向社会行動の相手選びの際に役立ち、「お返し」をしないような不公平な相手を避け、行き過ぎた向社会行動を抑制する。一方、共感の萌芽的なものとされる情動伝染により、他者の苦しみを自分も同じように感じ、他者からその苦しみを取り除いてやろうと動機づけられることで、向社会行動が促進されている可能性があるという。こうした向社会行動を支える心理メカニズムは、これまでの実験研究の結果に基づくものであることも、公平性による向社会行動の抑制メカニズムに関連する実験研究を紹介することで示された。その上で、向社会行動の進化を促進した要因に関する仮説を検証するために行われた霊長類15種の比較実験研究(Burkart et al. 2014)の紹介と考察・議論が行われた。

瀧本氏は今後、以上の心理メカニズムを構成する心理特性間あるいは心理特性と向社会行動の程度の相関・因果関係を調べる個人差に着目した研究をしていきたいのだそうだ。また研究対象種を霊長類以外の社会的動物種にも広げられるとのことだった。霊長類以外の動物も含めた向社会行動の進化の道筋も明らかにする実験研究が展開されると、大変意義深いと思われた。

日時 2014年9月5日(金)17:00-18:30
場所 玉川大学8号館第2会議室
報告者 藤井貴之(玉川大学 脳情報研究科 博士課程後期2年)

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