第95回 談話会
(2014年4月25日/私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 第6回 講演会)
知覚意思決定における内的バイアス
坂井 克之 氏
(玉川大学脳科学研究所)
今回の発表内容の肝を一言でまとめてしまうとすれば「判断を下す証拠がないときにした判断は尾を引く」となるだろう。今回、坂井先生に発表していただいた研究では、曖昧な感覚刺激に対して下した判断が、はっきりした感覚刺激に対して下した判断に比べ、次の試行で繰り返されやすい、という現象に対して、その計算論的モデルとその神経基盤が明らかにされた。行動実験では、複数回同じ選択をしている状況では、より同じ選択をしやすいという行動の履歴依存性も見られた。このような行動を説明するモデルとして挙げられたのが「判断の履歴依存性は、判断の選択尤度を推定する機構に起因する」というモデルである。すなわち、次に自らが行う選択は、自らが持っていた選択尤度と、前の試行において自らが選んだものとの差によって更新された選択尤度によって決まる、というものだ。
今回のモデルは、強化学習における予測誤差の理論と類似しているが、本来予測誤差を生み出すのは、選択をしたことによって外部からもたらされた報酬と、自らが期待していたものとの差である。だが、今回の研究では被験者に課題の正誤が与えられていない。被験者は何が正しいかのヒントが与えられていない状況にある。だが、「自らが選択したという事象」がまるで外部から与えられた情報かのように扱われることで、選択尤度の更新がされているのである。しかし、このような行動の正誤が与えられない状況では、このモデルを用いた行動選択をしていると、どんどん誤った選択をし続けてしまう状況に置かれる可能性があるにも関わらず、このような機構によって更新が行われているのだ。
発表中も議論は尽きなかった。特に何回も議論に上ったのは、課題後に意識的に感じられる自信の影響である。私たちは課題を行った後、結果が返される前に今自分が行った課題がどの程度正解だったかという自信を意図的に答えることができる。だが、今回のモデルは、すべて「autonomous(自律的)」な要素によって構成されている。意識的なものはどの程度自律的なものとの関わりがあり、我々の行動を説明できるのだろうか。また、今回の行動の特徴である、連続した選択を繰り返してしまうことは、機械論的に生成された行動なのだろうか、それとも「自らが行った選択の一貫性を保ちたい」という人間の高次な機能の現れなのだろうか。どちらの理論も、ある部分においては正しいのだろう。だが、それぞれの理論で説明できる現象が現れてくる状況が異なっているのではないだろうか。
これらの議論に関しては、先生がおっしゃった、自らの研究目標として「人間の脳の機械論を知りたい」という言葉は印象的だった。人間の行動をどこまで低次な内容で説明できるのか、どこからが高次な理論を用いないといけないのか。そのせめぎ合いを感じる研究内容と議論であった。
日時 | 2014年4月25日(金)17:00-19:00 |
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場所 | 玉川大学研究・管理棟5階507室 |
報告者 | 杉浦 綾香(東京大学総合文化 / 玉川大学 脳科学研究所) |