第92回 談話会
(2014年2月18日/私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 第3回講演会)
アセチルコリンによる視覚コントラスト感度の調節
相馬 祥吾 氏
(大阪大学大学院 医学系研究科 認知行動科学教室 日本学術振興会特別研究員(PD))
大阪大学大学院医学系研究科の相馬祥吾先生に「アセチルコリンによる視覚コントラスト感度の調節」という演題でご講演をしていただいた。相馬先生は、認知症患者へのアセチルコリン分解酵素阻害薬の塩酸ドネペジルの投与により認知症の視覚認知障害の症状が劇的に改善されることから、視覚皮質におけるアセチルコリンの機能的役割や神経機序の解明を目指して、霊長類やげっ歯類をもちいた研究を精力的に進めてこられた。
今回の発表では、まず麻酔下の霊長類に視覚刺激を呈示して、一次視覚野の各層のユニット活動を記録し、その視覚応答に対するアセチルコリンや阻害薬の局所投与の修飾効果を調べた研究が紹介された。アセチルコリンは各層の細胞の視覚応答を増強または減弱させ、その機能的役割としては視覚コントラストの感度閾値の調節ではなく反応ゲインを調節していることが示された。その機序として、主にムスカリン性のアセチルコリン受容体を介しているが、特に第4C層を中心にニコチン性アセチルコリン受容体も関与していることが明らかとなった。
次いで、麻酔下のげっ歯類(ラット)をもちいて一次視覚野の視覚応答に対するアセチルコリンの役割をさらに調べた研究が紹介された。アセチルコリンや阻害剤を脳表から浸潤投与する実験を試み、皮質間投射の多い第2/3層はアセチルコリンにより抑制される細胞が多く、皮質下投射の多い第5層は増強される細胞が多いことが示された。また、主に興奮性細胞であるRS細胞はアセチルコリンにより視覚情報が維持されやすく、抑制性細胞であるFS細胞は視覚情報が弱まる傾向であることも示唆された。
以上、相馬先生の講演は、視覚野に対するアセチルコリンの機能的役割と機序の解明という重要な研究目標に向かって、霊長類とげっ歯類を使った独自の実験をいくつも実施して着実に結果を導いているという印象を受けた。会場からの質問に対しても補助スライドを使って明確に説明してくださり、大変興味深く拝聴することができた。
日時 | 2014年2月18日(火) 17:00-18:30 |
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場所 | 玉川大学8号館2 階 第2会議室 |
報告者 | 礒村 宜和(脳科学研究所教授) |