談話会報告

第91回 談話会
(2013年12月9日/私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 第2回 講演会)

オプトジェネティクスの技術開発
 〜局所神経回路の動作原理解明に向けて〜

酒井 誠一郎 氏
((独)理化学研究所・脳科学総合研究センター 局所神経回路研究チーム 研究員)

昨今、『オプトジェネティクス』という単語を、神経科学に関する学会で耳にしないことはほとんどない。この数年でこれほどまでの興隆を見せたオプトジェネティクスに関して、本セミナーではその歴史と氏がこれまでに携わった技術開発、さらにはそれらを用いた研究の展望までをお話いただいた。
『オプトジェネティクス(optgenetics)』とは、光学を意味する『オプティクス(optics)』と遺伝学を意味する『ジェネティクス(genetics)』の造語である。つまるところ、遺伝学的な手法を用いて、光に対する感受性を持つタンパク質や蛍光タンパク質を発現する細胞を持つ動物を作り出し、その細胞活動を光学技術を用いてコントロールまたは計測しようという技術だ。光によって神経活動を誘発することができるチャネルロドプシン(ChR2)が、これまでに最も多く活用されている光感受性タンパク質であるが、それをどのようにして賦活させるかというのは以前から多くの研究者が試行錯誤を繰り返し、様々な方法が考案された。光ファイバーやレーザー光源、LEDアレイ、LCDなどが用いられたが、いずれも単一点刺激しかできない、コントラスト・反応速度が悪い等の問題があった。
これに対し氏らは、DMDプロジェクターを用いた高輝度・高解像度な多点同時並列光刺激システムを開発した。このシステムは市販のDMDプロジェクターを用いることで、比較的安価かつ容易に時空間パターンを持った光刺激を行うことができるという。また複数波長の光照射を行うことができ、脳スライス標本を用いた実験において、神経活動を興奮・抑制の双方向に操作可能なことを実証したそうだ。このシステムは、異なる周波数応答性をもつ複数の光感受性タンパク質の賦活や、ステップファンクション型ChR2のON/OFFといった、今後活躍が期待される実験技法に応用することも可能であるという。またなにより、多様な刺激パターンが入力できることにより、神経回路における情報処理メカニズムの解析に大いに貢献することが期待できるそうだ。
最後に氏が述べておられた、『オプトジェネティクスver. 2.0』という、独自のアイデアを紹介したい。ChR2を始めとする、光感受性タンパク質の発見からその神経系への適用を『オプトジェネティクスver. 1.0』、ChR2の改良や多様な光刺激・計測装置の開発を『オプトジェネティクスver. 1.5』と述べておられた(氏の今回の講演内容もこのver. 1.5に相当するとのことだ)。現在はすでに『オプトジェネティクスver. 2.0』の時代に突入しており、in vivo系での多点並列刺激による神経活動制御、光刺激による神経活動の『制御』と蛍光イメージングによる『計測』を同時に行うなど、さらに広範かつ柔軟にオプトジェネティクスを神経科学になくてはならない技術となっていくのではないかと仰っておられた。
まだ本格的にオプトジェネティクスを用いた研究を開始している研究室がない、我々脳科学研究所の面々にとって、氏のこれまでの研究成果をトピックに、オプトジェネティクスの隆盛とそれが今後進む方向を俯瞰して解説していただけたことは、非常に有意義なものだった。

日時 2013年12月9日(月) 16:30-18:00
場所 玉川大学8号館2 階 第2会議室
報告者 近藤将史 (脳情報研究科 博士課程後期3年/日本学術振興会)

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