第88回 談話会 (2013年2月22日/グローバルCOE 第56回 若手の会談話会)
高次相関を伴う神経回路網の活動と情報コーディング
島崎 秀昭 氏(理化学研究所脳科学総合研究センター)
本講演では、理化学研究所脳科学総合研究センターの島崎氏に、複数の神経細胞の協調活動を解析する高次相関解析法の説明と、それを実際の神経細胞の活動データに適用した2つの研究成果についてお話しいただいた。
1つ目は行動下の動物の神経活動における高次相関解析を可能とする島崎氏らが提案した手法についてお話しいただいた。行動下の動物から神経活動を計測した場合、外界からの刺激を受けるなどして個々のニューロンの神経活動の発火頻度や機能的結合(2次相関・高次相関)が動的に変化し、これらを同時に推定することが難しいとされる。しかし、島崎氏らは神経活動における変動も考慮に入れた新しい機能的結合のモデルを提案し、行動下の動物から計測したデータに潜む機能的結合、なかでも神経細胞間の高次相関を推定する手法を構築された。まず手法の検証として、変動を含む人工的なネットワークに同手法を適用し、ネットワーク活動に存在する高次相関を正しく推定できることを示された。次に、遅延反応課題遂行中のサルの一次運動野から計測された神経活動に同手法を適用し、運動開始の合図までの準備期間中のサルの神経細胞活動内に、行動開始への期待(脳の内部状態)に応じて時間選択的に有意に上昇する高次相関が見られることを示された。
2つ目は海馬CA3野の培養スライスの自発的な神経細胞の活動に対して高次相関の解析を行った結果をお話しいただいた。従来法である2次相関モデルでは計測された神経細胞の活動のすべてを説明することができないが、協調した神経細胞の不活性化を仮定することでうまく実験結果を説明できることを示された。この高次相関解析の結果から協調して沈黙する神経細胞集団の存在が示唆され、海馬CA3野にはこのような神経細胞の同時不活性化を促すネットワーク(例えば再帰的な抑制細胞ネットワーク)が存在することが推察されると述べられた。また、同時不活性によって海馬CA3野のスパースな集団発火活動が説明されることを解説していただいた。
複雑な神経活動の中に潜んでいる神経細胞の協調活動を明らかにする高次相関解析法は、脳の情報処理メカニズムの解明に重要であると考えられる。まず、本公演ではその高次相関解析手法をわかりやすくご説明いただいた。次に、同解析手法を用いることで、外界の情報や脳の内部状態がどのように神経細胞の活動にコーディングされているかに迫ることができることや、自発的活動に内在する機能的構造を明らかにし背後の神経ネットワーク構造に迫れることをご紹介いただいた。そのため、本講演は高次相関解析法について理解を深められるだけでなく、その有効性に関しても理解を深められる有意義な講演であった。
日時 | 2013年2月22日(水)16:30〜18:00 |
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場所 | 玉川大学工学部8号館 第2会議室 |
報告者 | 佐村 俊和(脳科学研究所・嘱託研究員) |