談話会報告

第82回 談話会 (2012年7月11日/グローバルCOE 第50回 若手の会談話会)

時間情報の脳内表現

林 正道 氏(AF-JSPS Post-doctoral Fellow, University of Helsinki)

ヘルシンキ大学にてご活躍されている新進気鋭の若手研究者である林正道さんに、海外の大学で行った脳内の時間表現に関する最新のご研究について講演をしていただいた。時間という身近な存在ながら直接的には観察することができない量が、どのように脳内に表現されているのかを実験的に研究することは非常にチャレンジングなテーマである。

今回の講演ではまず、時間表現を知覚レベルと意思決定のレベルに分け、数の時間処理への干渉過程についてfMRIとTMSにより検討した実験について紹介していただいた。この研究では、まず二つの刺激の時間長の大小判断課題において、同時に提示された数の多少の情報がどのような影響を与えるのか、時間長の大小と数の多少の関係が一致する条件と不一致な条件を比較することで検討を行なっていた。具体的な結果として、一致条件において不一致条件と比較して、IFGに強い賦活がみられることが示された。さらにIFGとIPCをそれぞれTMSで刺激することで、 カテゴリカルな時間判断においてIFGが、量的な時間判断においてIPCが重要な機能を担っていることを示唆するデータを発表していただいた。全部で実験が5つもある複雑で緻密な研究であったが、これらの実験が組み合わさって脳内の時間表現の様式を解き明かしていく林さんの研究は圧巻であった。

またもう一つの話は現在進行中のホットなトピックとして、ヒトの脳に特定の時間チューニングがあるのかという、非常に野心的なテーマに挑んだ最新の研究についてもご紹介いただいた。大変綺麗で刺激的なデータであったが、現在進行中ということも鑑み、興味がある方は、今年10月に開かれる北米神経科学会での発表を参照していただきたい。

日本を飛び出し海外で若い研究者人生を満喫している林さんのご講演は、とてもパワフルであり、今後の展開が待ち遠しくてワクワクさせられるものであった。時間という興味深いテーマを処理する脳内機構が明らかになる日も近いのではないかと期待させられる、そんな夢を抱かせる講演をしてくださった林さんに心からの感謝の気持ちを表したい。

日時 2012年7月11日(水)15:00〜16:30
場所 玉川大学研究センター棟 1階101演習室
報告者 高橋 英之(玉川大学グローバルCOE研究員)

談話会報告一覧に戻る TOP