第77回 談話会 (2012年3月1日/グローバルCOE 第45回 若手の会談話会)
脳トレゲームが高齢者の認知機能の向上に及ぼす影響
野内 類 氏(東北大学加齢医学研究所スマート・エイジング国際共同研究センター・
日本学術振興会特別研究員(PD))
本講演では、東北大学加齢医学研究所スマート・エイジング国際共同研究センターで高齢者の認知機能を維持・向上する原理・手法の解明を研究されている野内類氏に、脳トレゲームが高齢者の認知機能の向上に及ぼす影響についてご講演いただいた。
講演では、まず、高齢者の認知機能を維持・向上する方法の解明が、社会的に必要とされている背景についてお話しいただいた。野内氏からは、先進諸国の中でも特に我が国において高齢者人口の増加が著しく進んでいること、高齢者の認知機能の低下が日常生活技能の低下に直結する問題などが説明され、そのため、高齢者の認知機能を維持・向上することが、高齢者の生活の質の向上や、社会的負担の軽減につながる重要な課題であることが示された。
次に、高齢者の認知機能を維持・向上させるために現在研究されている認知トレーニングに関して、いくつかの先行事例が挙げられ、近年ではそういった認知トレーニングの媒体としてコンピューターゲームを使用することが注目されていることが示された。ゲームを使った認知トレーニングの存在を一般に広く知らしめたものとしては、野内氏の所属する東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授が監修した任天堂DSのいわゆる「脳トレ」ゲームが有名であるが、野内氏は、脳トレゲームが発売されて以降、社会的に大きな反響を呼び起こし、その効果に対する一部の批判を受けて、現在では脳トレゲームの効果の実証的な検証が世界的になされ始めているという状況を、先行事例を含めて説明された。こういった脳トレ検証の研究はまだ多くはなく、特にその高齢者の認知機能に及ぼす効果ははっきりしていない。そこで、野内氏らは、実際に脳トレゲームを使って高齢者への介入実験を行った。
研究では、無作為化比較試験のデザインが用いられた。被験者の高齢者は脳トレ介入群と、統制群にランダムに割り当てられた。脳トレ介入群では計算、音読などのいくつかの認知トレーニングがパッケージされた脳トレゲームを、4週間の介入期間の間、1回15分、週5回行った。統制群では脳トレの代わりにテトリスがトレーニングに用いられた。介入の前後で、全般的認知機能、実行機能、注意、処理速度の4つのカテゴリーでの認知指標の変化が、種々のテストで測定された。結果、実行機能と処理速度の指標において、脳トレ介入群は統制群に比べて有意な改善を示した。実行機能と処理速度は、日常生活や認知症の診断において重要とされている認知指標である。したがって、野内氏らは脳トレゲームが高齢者にとって効果的な認知トレーニングの一つとして有効であると考察した。
以上、本講演は高齢者の認知機能の維持・向上に、脳トレゲームという親しみやすい形でパッケージされた認知トレーニングが効果的であることを実証的に示した重要な研究報告であった。講演中、会場からは活発に質問がなされ、この分野への関心・期待が高いことが伺えた。今後の研究発展に大きな期待がよせられる。
日時 | 2012年3月1日(木)17:00〜19:00 |
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場所 | 玉川大学研究管理棟 5階502演習室 |
報告者 | 蓬田 幸人(玉川大学脳科学研究所・日本学術振興会 特別研究員) |