談話会報告

第75回 談話会 (2011年12月7日/グローバルCOE 第43回 若手の会談話会)

マカクザルの前頭前野におけるタスクフェーズの多重表現

佐賀 洋介 氏(日本学術振興会特別研究員(PD))

本講演では本年9月に本学工学部にて博士号を取得し、現在は日本学術振興会特別研究員の佐賀洋介氏らが、玉川大学脳科学研究所設立当初より取り組まれてきた、マカクザルの前頭前野におけるタスクフェーズの多重表現に関しする研究についてご講演いただいた。

行動を段取りすることは、作業の効率化やミスの軽減などにおいて重要な方法である。ところが、脳の前頭前野に障害を受けると、一つ一つの行動は正しく行えるが、その一つ一つの行動をまとめて全体を段取りすることができなくなる。例えば、料理を例にあげると、肉を切る、野菜を炒める、ご飯を炊くといった一つ一つの行動はできるが、これら一つ一つの行動全てをまとめて全体を段取りし、カレーライスを作るといったことが困難となる。このように、臨床や脳損傷動物モデルなどの症例・研究報告から、行動の段取りは前頭前野が担っていることは示唆されてきたが、その詳細なメカニズムはこれまで解明されていなかった。そこで佐賀氏らは、前頭前野の機能障害によって一定間隔で提示される感覚刺激を数えられなくなる、複数の物事の前後関係の把握ができなくなるという症例報告に注目し、行動の段取りの基礎となる行動の段階を前頭前野がモニタリングしているのではないかと考え、高次脳機能研究が可能なニホンザルを用いた研究を行った。

実験課題は、視覚、聴覚、触覚による信号が独立して数秒間隔提示されるなかで、4回目の信号提示時に素早くボタンを離すことによって報酬が与えられる行動課題をニホンザルに学習させた。この課題の特徴は、独立した各種感覚信号が何回目にあるかという情報を提示毎に更新し、4回目の提示時のみにおいて行動を発現することである。このような課題下において、行動の段階(何回目か)に応答する前頭前野背外側部の単一神経細胞の電気活動を記録した。その結果、これら神経細胞の活動は一様ではなく、行動の段階に応じて様々な活動を有することを発見した。例えば、各感覚刺激に特異的に応答する細胞集団、何回目の刺激であるかという段階に依存的な細胞集団、1回目と2回目の間、3回目と4回目の間といった段階のインターバルに応答する細胞集団などである。興味深いことに、これら回数選択に応答する細胞の潜時は、感覚刺激に選択的に応答する細胞群より遅かった。また、感覚刺激に応答した神経細胞の分布は、解剖学的な細胞分布に従っていた。以上の結果から、前頭前野は、まずどの段階であるかを感覚刺激からモニタリングし、その後、多様な選択性を有する活動によって各段階を多重に表現するのではないかと佐賀氏らは考察した。

以上本講演は、行動を段取りする神経生理学的なメカニズムを、単一細胞レベルで明らかにした重要な研究報告であった。今後、このような結果から、高次脳機能障害の病態解明やより適切なリハビリテーションの方法の開発につながることが期待される。また佐賀氏は、来年度からフランスで研究されるとのこと。世界に羽ばたく佐賀氏のさらなる飛躍と成功を祈るとともに、新たな発見の報告を待ち遠しく思う。

日時 2011年12月7日(水)17:30〜19:00
場所 玉川大学研究センター棟 1階101演習室
報告者 加藤 康広(玉川大学脳科学研究所・嘱託研究員)

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