第73回 談話会 (2011年12月1日/グローバルCOE 第41回 若手の会談話会)
脳波スイッチの開発
〜重度身障者がいつでも利用できる福祉機器の実現に向けて
加藤 康広 氏(玉川大学脳科学研究所)
本講演では当大学脳科学研究所において「ひげさん」の愛称で親しまれている加藤康広研究員から、脳波からの信号によって外部機器を起動及び停止する脳波スイッチについて研究発表を伺った。
念じただけで物を動かすスターウォーズのフォースや、遠隔で別の身体を操作する映画「アバター」など、考えただけで物を動かす研究に関心のある加藤研究員は、現在のブレイン・コンピュータ・インタフェース(BCI)には2つの課題があると考えている。一つは脳波からの多様な信号を処理するBCIでは、非使用時など自分が意図しないタイミングでシステムが起動する可能性が高いという点、また二つ目はBCIのシステム構成が複雑であり、利用者個人での運用が困難であり、他者からのサポートが必要になるという点である。
そこで加藤研究員は、BCIを利用する前の段階で自分の意図に応じて容易に起動及び停止するスイッチ機構を取り入れたシステムを開発した。システムは脳波計と脳波を解析するコントローラ、刺激提示用の小型のLEDランプから構成され、利用者は頭頂部、耳の二カ所に電極を装着する。ここで起動及び停止の制御は、予備刺激後に脳波の基線が陰性にシフトし、次に現れる本刺激に対する予期に関連すると考えられている、随伴陰性変動(CNV:Contingent Negative Variation)を利用した。実験ではLEDランプによる予備刺激呈示後、被験者は「1、2、3……」といったように数字を数えて集中力を高め、次のLEDが点灯したときにボタンを押す。予備刺激、CNV、本刺激の3つの特徴区間を有するCNV関連電位は、他の事象関連電位と比較し高いS/Nを有し、処理に必要な加算回数を減少させることに繋がる。更にサポートベクタマシンのライブラリの一つであるLIBSVMを利用し、コントローラでリアルタイムに識別が可能になるようにパラメータの調整を行った。これにより、CNV関連電位の検出精度は99.3%となり、個人毎にパラメータを最適化することで単一試行での検出も可能となった。この実験から、単一試行でCNV関連電位を検出し、身体動作を伴わず思考でのみスイッチをすることが可能であり、更に意図しない刺激の影響を回避可能であることを確認し、本システムがBCI利用時のスイッチとして有益であることを示した。
本講演では、加藤研究員からBCIにおいて実運用上で課題となる、システムの起動及び停止を解決する具体的なシステムについて紹介して頂いた。今後システムの更なる高精度化及び、実環境での運用が実現し、BCIを必要としている身体障害者を含めた多くの人への普及に繋がる研究の発展を期待したい。
日時 | 2011年12月1日(木)16:30〜17:30 |
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場所 | 玉川大学研究管理棟5階507室 |
報告者 | 渡邊 紀文(玉川大学脳科学研究所知能ロボット研究センター) |