第53回 談話会 (2009年11月27日/グローバルCOE 第21回 若手の会談話会)
薬物誘発空間記憶障害と海馬θ波の関連性
益岡 尚由 氏(徳島文理大学香川薬学部病態生理学講座・助教)
本講演では、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の亀井千晃教授のもとで、学習・記憶と海馬シータ波の関連性についての研究を薬理学的な側面からなされていた益岡尚由博士にご講演頂いた。学習や記憶に海馬の活動が重要な役割を果たしていることは古くから良く知られている。海馬を代表する神経活動のひとつとして5-12 Hzの周波数帯に観測される律動的かつ高振幅な脳波であるシータ波があるが、実際に記憶を働かせている記憶課題試行時において観察されるシータ波(主に自発運動時に観察されるType 1シータ波)と記憶との関連性については不明な点が多い。今回の講演では放射状迷路課題試行時の海馬シータ波を様々な薬物投与条件下にて測定し、学習(記憶の獲得)と再生(獲得した記憶の想起)における海馬シータ波の関与について明らかにすることを目的とした一連の研究成果について解説して頂いた。主な発表内容を以下にまとめる。
- 空間参照記憶の獲得に伴い、海馬シータ波の振幅およびパワー値は減少する傾向があり、両者の間には有意な相関がある。
- scopolamine投与による記憶障害と海馬シータ波のパワー増加がニコチン受容体の刺激作用によって拮抗される。
- H1拮抗薬投与による記憶障害がH1拮抗作用よりもムスカリン受容体拮抗作用の影響を強く受けている。
- H1拮抗薬が誘導する作業記憶障害には海馬のNMDA受容体、AMPA受容体、グループⅠ代謝型グルタミン酸受容体を介した神経伝達との関連している。
報告者も含め、聴講者の多くは電気生理学を主体とした研究者・学生であったが使用薬の基本的な効果の解説も適宜挿まれ、何よりも各種受容体の作動薬・拮抗薬等を巧妙に組み合わせて現象の根源に迫っていくプロセスは非常に印象的であった。特に齧歯類を被験体とする研究アプローチとして薬理と電気生理の組み合わせの必要性を改めて確認することができた非常に有意義な講演であった。
日時 | 2009年11月27日(金)17:30〜19:00 |
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場所 | 玉川大学研究管理棟5階507室 |
報告者 | 高橋 宗良(玉川大学脳科学研究所・GCOE研究員) |