第50回 談話会 (2009年9月11日/グローバルCOE 第18回 若手の会談話会)
幼児期における前頭葉機能の発達的研究
森口 佑介 氏(上越教育大学学校教育研究科・助教)
2009年9月の談話会では、現在上越教育大学にて教鞭をとられている森口佑介氏をお迎えし、「幼児期における前頭葉機能の発達的研究」についてお話を伺った。森口氏は京都大学在学時から幼児を対象として精力的に実行機能に関する発達的研究をされており、若くして数多くの業績を残されている気鋭の若手研究者である。最近では、脳機能計測が技術的に最も難しいとされる幼児(3〜5歳児)を対象として近赤外分光法を用いた実験を成功させ、認知シフトの神経基盤に関する論文をPNASに発表されたばかりである。
認知シフトが求められるタスクの一つとしてよく知られるのが、ウィスコンシン・カード・ソーティング・タスク(WCST)である。WCSTは単純に絵カードを分類するタスクであるが、分類のルールが3つあり、実験者の指示により切り替わる。この切り替わりに対応できるか否かで認知シフトの能力を測定する。具体的には、色・形・数を基準にカードを分けるというルールの切り替えに応じた分類をさせる。前頭葉損傷患者の場合、ルールの切り替えがうまくできずに前のルールに固執する。このような切り替えの困難は、3歳の幼児においても観察され、この理由として前頭前野の機能の未成熟が関連していると考えられてきたが、直接この説明を支持するデータは得られていなかった。
この仮説を直接検証するため、森口氏らは3歳児・5歳児・成人を対象にWCSTの幼児版であるDCCS(Dimensional Change Card Sort)をさせ、タスク遂行時の前頭前野の活動を、体動のノイズに比較的強いといわれるNIRSによって計測した。
固執的な行動を産出した3歳児、課題に成功した3歳児、そして5歳児の脳活動を比較したところ、課題に成功した3歳児と5歳児の脳活動に差異は見られず、固執的な行動を示したかそうでなかったかによって前頭前野外側部の活動に違いがみられたという。これは、認知シフトに前頭前野の成熟が不可欠である可能性を直接的に支持する証拠である。
脳機能計測技術の進歩に伴い、幼児を対象とした脳研究は増えつつある。しかし依然として、椅子にじっと座っていることの難しい幼児期の子ども(1歳〜6歳)を対象として脳機能計測を行うことは実に難しい。計測のノウハウや工夫に関する話は大変参考になった。
日時 | 2009年9月11日(金)14:30〜15:30 |
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場所 | 玉川大学研究管理棟5階507室 |
報告者 | 宮﨑美智子(玉川大学脳科学研究所・GCOE研究員) |