談話会報告

第49回 談話会 (2009年7月24日/グローバルCOE 第17回 若手の会談話会)

美的評価に関わる脳内機構

池田 尊司 氏(京都大学大学院文学研究科・教務補佐員)

京都大学の池田尊司さんから美的評価に関わる脳内機構についてのfMRI実験、心理物理実験についてのご自身の実験のデータについて紹介して頂いた。今までの人間の高次機能研究において、美的評価が対象とされたものはわずかにしか存在しなかった。何故かといえば、美的評価という概念が非常に曖昧なものであり、厳密な定量性が求められる神経科学の土壌に馴染まないと考えられるからである。しかし池田さんは、このような難しい領域にも果敢に挑戦され、非常に興味深い数々のデータを提示してくださった。fMRIの実験では、川畑やZekiによってなされたfMRIの先行研究の追試データについて紹介して頂いた。これらの知見から、美しい絵画に対しては、食物や金銭などの報酬に反応する大脳基底核や眼窩前頭前野などの脳部位の活動が高まり、反対に醜い絵画に対しては運動野の活動が高まるという興味深い実験データが示された。これは美的評価という高次な処理に、一般的な報酬の処理に関わるとされる脳部位が関与していることを示唆するものである。さらに池田さんはこのようなfMRI実験を通じて、美しいという感情をより細かく区分する必要を論じた。そして次により美しさの定義を厳密にするために、単純な色彩パターンに対する美的評価の判断にかかわる要因を検討した心理物理実験について紹介してくださった。その結果、美的評価には、色彩調和という単純な要素が重要な意味を持っていることを重解析分析により明らかにした。池田さんは、これらの実験の結果から、意識的なプロセスと無意識的なプロセスの両方が組み合わさって美的判断が行われているという仮説を提唱されていた。

美の神経科学という普段なかなか聴くことができない興味深いテーマなこともあり、非常に盛り上がった講演会となった。美というのは定義により様々な捉え方が可能な漠然としたものであり、参加者の先生の中には池田さんの研究を評価しつつ、自らの美に対する考え方を堂々と主張される方もおられ、非常に発表者と参加者がインタラクティブに議論する白熱した講演となった。終了後の懇親会でも、延々と美の定義や存在意義についての議論が交わされ、美という概念に対するみなの関心の高さが窺えた。まだまだ新しい領域で分からないこともまだ多いが、今後の可能性を感じさせてくれる講演会となった。

日時 2009年7月24日(金)18:00〜19:30
場所 玉川大学8号館第一会議室
報告者 高橋 英之(玉川大学脳科学研究所・GCOE研究員)

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