第40回 談話会 (2008年11月7日/グローバルCOE 第8回 若手の会談話会)
自閉症の視知覚研究の今
−注意機能との関係から−
片桐 正敏 氏(北海道大学大学院教育学研究科・大学院生)
自閉症という他人とうまくコミュニケーションすることができない発達障害について、視知覚の観点から精力的に研究されている北海道大学博士課程の片桐正敏さんに、自閉症の主に視覚機能にかかわる最近の研究についてのお話を伺った。視覚機能には大局的な情報を統合する視覚処理(背側経路:大細胞系)と、局所的な部分(腹側経路:小細胞系)に注目する視覚処理の二つにより構成されており、自閉症の人々は大局的な情報の統合に問題があるという仮説についてまず紹介して頂いた。そして、それらに関する多くの先行研究の知見について紹介して頂き、さらに片桐さん自身が行っておられる、高機能自閉症の方を対象にした注意を向ける範囲のシフトに関する行動実験、さらにコヒーレンスの量に応じたランダムドットモーションの運動方向の弁別成績と社会性の質問紙のスコアの相関を調べた研究についての発表を聞かせて頂いた。前者の実験は、非常な単純な視覚刺激を判断する課題にも関わらず、高機能自閉症の人々に非常に特徴的な傾向が行動にでており、自閉症の特徴が比較的低次の視知覚まであらわれることを顕著にあらわす示唆的な結果であった。後者の話は、自閉症をよりスペクトラム様の連続的な観点から捉え、ランダムドットモーションという視知覚課題の成績と、社会性という比較的漠然とした指標の間に相関関係があることを示した非常に斬新な研究であった。
グローバルCOEの大きなテーマでもある社会性を語る上で、自閉症は重要な示唆を与えてくれる発達障害であり、参加者も非常に熱心に片桐さんの話に対し質問をしていた。特に玉川大学脳科学研究所はサルによる電気生理実験が盛んに行われているが、ランダムドットモーションはそれらの電気生理実験でもしばしば使われる課題であった。従って片桐さんの発表されたデータは、電気生理の知見と社会性という異なるテーマをつなぐ上で大きな可能性を与えてくれるものであり、電気生理を専門とする参加者を中心に非常に盛り上がった議論が展開された。このように片桐さんの若手の会での発表は、これまで個々に研究されてきた社会性という曖昧なテーマに対して、視知覚や注意といった機能的な概念を持ち込むことで縦線をつないだ議論を喚起したという意味で非常に意味のあるものとなった。今後、今回のような講演会を通じて異なる領域の研究者が議論、共同研究を行っていくことで、人間の脳に備わっている社会性の起源について、神経科学的な観点から斬り込んでいけるのではないかと思わせてくれる素晴らしい発表であった。
日時 | 2008年11月7日(金)18:00〜19:30 |
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場所 | 玉川大学研究センター棟1階セミナー室 |
報告者 | 高橋 英之(玉川大学脳科学研究所・GCOE研究員) |