第37回 談話会 (2008年8月1日/グローバルCOE 第5回 若手の会談話会)
成績フィードバックを操作して学習を促進する
柴田 和久 氏(基礎生物学研究所脳生物学部門・非常勤研究員)
奈良先端科学技術大学院大学から国際電気通信基礎技術研究所を経て、いまはボストン大学でポスドクをしている柴田和久さんに来ていただき、ご講演をお願いした。柴田さんは、視覚心理物理の手法を用いて人の学習の機構にせまる実験をおこなっている。ある視覚判別課題を学習する時に、被験者本人のパフォーマンスに基づく正確なフィードバックを与える場合よりも、不正確だけれどもすこし良い結果だったかのような「偽の」フィードバックを与えることによって、学習が促進されるという不思議な現象を発見した。学習の理論的枠組みから考えれば、不正確なフィードバックはフィードバックから得られる情報を最大化して利用するという観点から、学習には不利なはずである。にもかかわらず、ヒトの学習は促進されてしまうのである。いかに学生さんをencouragingに対応することが大事であるかを思い知らされる講演だったのだけれども、さらに彼はこの現象を説明するような計算モデルによる学習メカニズムの推定を行い、実験結果を再現できるだけでなく予測も行っているところが非常におもしろかった。
最初の興味から直感的にたてる仮説や実験結果の解釈がおもしろいだけでなく、計算モデルによる予測を立てて検証することの難しさや、説明能力の高さ、またはモデルを使うことの対する危うさなど、論文にはなかなか現れにくい本音の研究姿勢なども聞けて大変若手には刺激になったのではないかと考える。
日時 | 2008年8月1日(金)17:00〜18:30 |
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場所 | 玉川大学研究センター棟1階セミナー室 |
報告者 | 鮫島 和行(玉川大学脳科学研究所・准教授) |