第35回 談話会 (2008年6月24日/グローバルCOE 第3回 若手の会談話会)
乳児のひとり発声
嶋田 容子 氏(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科・研究員(科学研究))
第3回談話会では、京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科のPD(ポストドクター)の嶋田容子氏により、「乳児のひとり発声」と題した講演が行われた。
嶋田氏の研究は、乳児の発声には、応答を求めるものと、発声そのものを楽しむものがあるのではないか、というユニークな着眼点に基づき、乳児の発声行動を観察し、実験を行ったものである。これによって、乳児が、他者からの応答を得られない状況で発声し続けるとき、その発声の動機は、他者からの応答ではなく、自身の発声行動そのものである可能性を検討した。
5ヶ月児を対象に、母親による応答が返される条件、乳児が単独で置かれ周囲からの反応が一切行われない条件、乳児が単独で置かれ、かつ自分自身の発声した音の反響が増幅されてスピーカーから呈示される条件、という3つの実験条件を設定し、各乳児の自宅で発声行動の記録を行った。
この結果、乳児は単独で置かれている条件では、母親により応答が返される条件よりも長い時間、発声を継続することが明らかになった。また、乳児自身の発声を増幅してフィードバックすることにより、乳児の発声行動はより長く継続することもわかった。こうした「乳児のひとり発声」は、喃語期からジャーゴンを経て出現する初語期に向け、発声を反復することでより複雑な発声とそれらの組み合わせを可能にしていく言語発達の準備段階として、重要な現象であるととらえられる。
この講演に対し、トリの発声に関わる脳内機構の専門家や、外部から参加した育児用品メーカー研究所の研究員などから、「ひとり発声」の解釈やその発達上の意義に関して質疑とコメントが寄せられて、活発な議論となった。ハチ、マウス、サル、ヒトといったように研究対象がさまざまに異なる本学の研究員たちが、「音声」という共通の視点から生物の発達過程を考え直す貴重な機会を提供することができた。
日時 | 2008年6月24日(火)10:30〜12:00 |
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場所 | 玉川大学研究管理棟5階507室 |
報告者 | 梶川 祥世(玉川大学リベラルアーツ学部・助教) |