第34回 談話会 (2008年5月29日/グローバルCOE 第2回 若手の会談話会)
ロボットと自閉症療育の接点
小嶋 秀樹 氏(情報通信研究機構知識創成コミュニケーション研究センター・主任研究員)
キーポンという独自に開発したロボットを駆使して、大変ユニークな自閉症療育の試みをされている小嶋秀樹先生にお話を伺った。自閉症の人たちは他人とのコミュニケーションを非常に苦手とする一方で、モノとのやり取りには独自の選好を示すことが知られている。小嶋先生は、ヒトとモノの中間に存在するロボットとのやり取りを通じて、自閉症の子供たちに他人に対する興味や、様々なコミュニケーションのスキルを獲得させられるのではないかという、非常に野心的な取り組みを行っている。講演の話は、社会性に関する理論的、哲学的考察やロボットの開発の苦労話を聞かせて頂いた後、実際の自閉症療育の様子を動画で見せて頂いた。非常に聴きごたえ、見ごたえがある講演であった。特に他人に無関心であった自閉症の子どもがキーポンを通じて、周りの他者に興味を持つようになっていく過程は非常に興奮を覚えるものであった。多くの療育研究は経験論にもとづくものが多い中で、小嶋先生は心理フィルタ理論という明確な理論にもとづいて療育の研究をされていることも非常に印象的であった。また従来のロボットのイメージからは大きく逸脱したキーポンのかわいらしい外見と動きは、ロボット研究も盛んに行われている玉川大学の研究者に大きなインスピレーションを与えたものと思われる。
ロボットというこれまで自閉症の教育臨床とは無縁であった対象を、教育臨床のフィールドに大胆に持ち込んだ小嶋先生の研究は先駆的なものであり、大変刺激を受けることができた。自分も自閉症の方々を対象にした研究を行っているということもあり、様々なインスピレーションや今後の自閉症研究に関する示唆を小嶋先生の講演から受けることができた。特に、講演会に先立ち自分の研究を小嶋先生にプレゼンする機会を与えてもらい、様々な有益なアドバイスをいただくことができたことは非常に貴重な機会であった。また講演会後の懇親会では、よりリラックスした形で色々とお話することが出来たのも、若手の会ならではのことであったと思われる。このように国際的にも注目を浴びている小嶋先生であるが、玉川大学若手の会という場において、非常に近い距離で密に議論出来たことは大変貴重であり、本会を通して多くの刺激を受けることができた。ロボットと自閉症という小嶋先生が発表されたテーマは、玉川大学グローバルCOEの主要テーマである社会性というテーマを追求するうえで非常に多くの示唆を与えるテーマであり、グローバルCOE全体の研究の活性化にも非常に有益であったと考えられる講演会であった。
日時 | 2008年5月29日(木)17:00〜18:30 |
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場所 | 玉川大学研究管理棟5階507室 |
報告者 | 高橋 英之(玉川大学脳科学研究所・GCOE研究員) |