談話会報告

第32回 談話会 (2008年3月28日/第9回 若手の会談話会)

衝動的選択:脳内機構と生態学

松島 俊也 氏(北海道大学)

動物に「心」があるだろうか。特に哺乳類以外の動物にも、われわれヒトと類似の心的な過程があるだろうか。この課題は生物学にとって根源的な問いの一つであったにもかかわらず、長く不良に設定された問題としてとどまり、満足のいく研究戦略が確定しなかった。近年、鳥を対象とした認知科学的研究の進展に伴い、鳥にもヒトと類似した認知過程があることが示唆されるようになった。しかし、多くは彼我の類似を指摘するのみである。ここではヒヨコ(鶏雛)を対象とした行動経済学的研究を紹介する。択一選択の解析からヒヨコの評価関数を推定したところ、予期報酬の量・遅延・コストの3つの変数を分離した。一連の破壊実験の結果、これらの変数の責任部位は二重分離されることがわかった。このことは、生態学的な仮説(最適採餌理論)が一次近似としては有効であって、脳機能の解析に指針を与えることを示唆する。さらに、動物にみられる最適性(利得最大化)の破れの例を示し、その機構と生態を議論する。


条件付け学習によりモルモット聴覚野に生じる可塑的変化

井出 吉紀 氏(玉川大学)

音と電気刺激による条件付けは情動記憶の研究でよく用いられているが、このパラダイムを用いた大脳皮質聴覚野の可塑性の研究も多く行われている。Weinberger らは、 条件付けによって大脳皮質聴覚野細胞の周波数受容野が変化し、条件付けに用いた周波数への同調が強くなることを示した。また、大脳皮質聴覚野の空間表現は周波数局在として存在しているが、Merzenich らはサルに周波数弁別課題を行わせると大脳皮質一次聴覚野の訓練周波数に対応する領域が拡大することを示した。本研究では、これまでに音と電気刺激による条件付けを行い、訓練周波数に対応する聴覚領域が短時間の訓練でも拡大することを確認している。また、音と両足電気刺激による条件付けにおいて、両足電気刺激により音の情報が想起され、聴覚野に応答が生じるのではないかという予測の下、両足電気刺激に対する聴覚野応答について調べたので、それらの結果について報告する。

日時 2008年3月28日(金)17:00〜
場所 研究管理棟2階210・211室

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