談話会報告

第27回 談話会 (2007年10月17日/第4回 若手の会談話会)

ミツバチの社会行動と
ドーパミントランスポーター遺伝子の発現解析

野村 祥吾 氏(玉川大学)

セイヨウミツバチ(Apis mellifera)は高度な社会性をもつコロニーを形成して生活している。コロニーは働き蜂、女王蜂、雄蜂により構成される。生殖を行うのは女王蜂と雄蜂であり、働き蜂は巣を維持するための仕事を担っている。働き蜂の仕事は日齢による分業制であり、若い蜂は巣内での仕事を行い、老齢の蜂は外に出て採餌活動をする。このようなタスクの変化はコロニーを維持するための基盤となっており、行動の違いを支える神経系の研究はミツバチの社会性を知る上で重要である。巣内で仕事をする働き蜂とは異なり、巣の外で採餌活動をする働き蜂は、餌場を探索し長距離を飛行するため活発に活動する。従って分業は活動量の変化を伴うことになり、運動活性や行動の動機付けなど脳の高次機能を制御するドーパミン作動性神経が関わっていると考えられる。そこでドーパミン神経系の発達と行動変化の関係を調べるために、ドーパミントランスポーター(DAT)に着目した。DATはドーパミン作動性神経の末端に存在する膜タンパクの一種であり、シナプス間隙に放出されたDAを回収し再利用する役割をもっている。本研究ではこのDATに着目し、datがセイヨウミツバチの行動変化においてどのような役割であるのかを調べるために、日齢やタスク、カースト間などで発現量を比較した。


チョウが見ている色の世界

木下 充代 氏(総合研究大学院大学)

我々には、色が見える。ヒト以外の多くの動物にも色覚があると考えられているが、これは必ずしも我々が見ている色世界と同じとは限らない。ある動物の見ている色世界は、学習と弁別を組み合わせた行動実験によってのみ明らかにできる。色覚の有無が行動実験によって正しく証 明されたのは1999年のことである。羽化したばかりのアゲハチョウに、特定の色紙上で砂糖水を繰り返し与えると、ほどなく自ら学習した色紙の上に降り立ち吻を伸ばして餌を探すようになる。この行動を指標にしてアゲハチョウの色覚能力を調べると、その色覚がヒト色覚と大変似ていることがわかってきた。一方、チョウの目複眼は、ヒトの網膜とは異なり個眼が集まってできている。個眼は最も小さい光受容単位で、チョウのいわゆる「視力」を決めている。さらにひとつの個眼には普通いくつかの異なる種類の色受容細胞を含むので、色覚情報処理の最小ユニットでもあると考えられている。視力と色覚の関係をY字型のかごを使って調べると、アゲハチョウが色を弁別できる最小の大きさは視角度にして約1度であることがわかった。この大きさは、個眼ひとつ分の受容角とほぼ一致する。これはアゲハチョウには見る事のできる最も小さいものまで、その色が見えている可能性を示している。ヒトは、弁別できる最小の大きさではその物の色がわからない。このことを考えると、アゲハチョウがヒトよりも「色」に強く依存した動物であるように思える。

日時 2007年10月17日(水)17:00〜19:00
場所 研究管理棟5F 502室

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