第26回 談話会 (2007年9月25日/第3回 若手の会談話会)
ラット海馬CA1野における
異シナプス性連合性LTPの樹状突起膜電位の光計測
米山 誠 氏(玉川大学)
海馬CA1領域の樹状突起における入力シナプス同士によるシナプス結合強化情報処理モデルとして異シナプス連合性LTP(heterosynaptic associative LTP)がある(Huang,2004)。異シナプス連合性LTPには2つの入力経路がある。1つは自らの高頻度の入力刺激によりシナプスにLTPが発生する入力経路「Strong入力」、もう一方は単独の入力刺激でシナプスにLTPが起こらないがStrong入力と同時入力でLTPが発生する低頻度の入力経路「Weak入力」である。これまでに我々のグループが行った細胞外電位記録を用いた研究では、逆行性活動電位が弱い条件でも異シナプス連合性LTPが起こることが示された。(Tsukada, 2007)
今回、Strong入力からの膜電位情報がどのようにWeak側へ伝わるかについて明らかにするために、膜電位感受性色素を用いた光計測を行い2入力間の空間的な電位伝播過程を観測した。本研究から異シナプス連合性LTPを誘導する刺激プロトコルによって非線形な加算が観察された。本研究で観察された非線形な応答が異シナプス連合性LTPに関与している可能性がある。
多ニューロン画像法を用いた海馬回路演算様式の解明
佐々木 拓哉 氏(東京大学)
脳は多彩なニューロンの集合体である。しかし、これまでの神経生理学研究では、単一ニューロンのミクロな挙動、またはニューロン集団を平均化したボーラス挙動を解析するという限定的な実験がほとんどであった。これらのアプローチは多くの有用な知見をもたらしたが、それだけでは神経回路機能の実態を根底から 解明することはできない。Functional multi-neuron calcium imaging(fMCI)は、1つ1つの細胞の個性を損なうことなく、大規模に神経活動を記録できる比較的新しい実験手法である。本手法では、カルシウム蛍光シグナルを多ニューロンから一斉にイメージングすることにより、神経ネットワーク活動の時空パターンを正確に構築することが可能である。我々は、海馬回路に本技法を適用し、回 路全体のマクロ応答の大きさは、入力の総和に対して線形的であること、および個々の試行には偶発レベルを超えた不確定性があることを明らかにした。また、神経回路に内在する自発活動の特性にも焦点を当て、得られた活動パターンの時系列を分析したところ、神経ネットワークの挙動はしだいに新しい安定状態へと内発的に移 行することがわかった。本性質は、脳システムが外部とは独立して独自に可塑性を引き起こし、自己組織化されていく過程を示唆する知見であると考えられる。
日時 | 2007年9月25日(火)17:00〜19:00 |
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場所 | 研究管理棟5F 501室 |