第23回 談話会 (2007年2月20日/21世紀COE 第23回 若手の会談話会)
神経細胞樹状突起における
情報処理の場所依存性
相原 威 氏(玉川大学)
海馬神経細胞の情報処理はその入力部位によって特性が異なっていて、それは抑制性細胞が影響しています。そして、この発見は 新しい学習則の基盤になるのです。
記憶に関する可塑性神経回路において、長期増強(LTP)や長期抑圧(LTD)に関する研究がなされてきた。近年では、時間タイミング依存性の可塑性(STDP; Spike-timing dependent synaptic plasticity)が報告され(Bi et al.1998)、理論と実験の橋渡しとして注目を集めている。しかし、神経回路の構造を考慮した可塑性誘導の検討はいまだ十分にはなされていない。そこで本発表では、海馬ニューロンの情報処理への抑制性細胞の影響に着目し、以下の3つの生理実験結果(及びモデルシミュレーション)を紹介する。
- デンドライトにおけるSTDPの場所依存性
- 細胞近位・遠位部の時系列情報処理の違い
- 細胞遠位部の情報処理への近位部入力の影響
そして神経回路の構造に基づく新たな統合的記憶情報処理様式の考察をおこなう。
狂犬病ウイルスで神経ネットワークを探る
宮地 重弘 氏(京都大学)
大脳皮質一次運動野に狂犬病ウイルスを注入し、行動制御に関わる多シナプス回路を解析したところ、前頭前野に体部位再現的構成が確認された。
脳内の神経細胞は、シナプスを介して相互に連絡し、複雑な回路を構成している。このような多シナプス回路の全体像を明らかにすることは、従来の神経解剖学の手法ではきわめて困難であった。狂犬病ウイルスは、神経細胞特異的に感染し、シナプスを介して逆行性に感染が進行する。これを神経トレーサーとして用いれば、複数のシナプスを介する神経連絡を可視化することができる。我々は、サルの大脳皮質一次運動野にこのウイルスを注入し、行動制御に関わる多シナプス回路を解析した。まず、一次運動野上肢領域にウイルスを注入し、様々な生存期間の後の感染の広がりを解析した。注入の2日後には、注入部位に直接投射する1次ニューロンが、3日後、4日後にはシナプスを越えて2次および3次ニューロンが、大脳皮質および皮質下の様々な領域で標識された。次に、一次運動野の様々な体部位領域(上肢、下肢、口腔顔面、上肢近位部、上肢遠位部)へのウイルス注入の後、4日目に現れた3次ニューロンと考えられる標識細胞の分布を、前頭前野、大脳基底核、小脳において解析した。その結果、前頭前野、線条体、視床下核、小脳皮質において、体部位再現的構成が確認された。
日時 | 2007年2月20日(火) |
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追加講演 (2007年3月30日/21世紀COE 第24回 若手の会談話会)
報酬予測脳活動に対する
知覚的曖昧性の影響
山本 愛実 氏(玉川大学)
報酬関連脳活動は、ヒトおよび動物の学習や動機付け、意思決定などに強い関係を持っているとされ、生物が環境に適応して生存するうえでも非常に重要な役割を果たしていると考えられている。哺乳類においては、中脳のドパミン神経系が報酬関連の脳活動を行っており、ドパミンは、被核や淡蒼球など大脳基底核に投射され、報酬予測関連部位として研究の対象となっている。マカクザルによる電気生理学的な実験や、fMRIを用いた先行研究などにより報酬系の活動は、条件刺激との間に条件づけが起こっている場合、報酬が呈示された際ではなく報酬と条件付けられた条件刺激が呈示された際に起こることが明らかにされてきた(Mirenowicz & Schultz,1994; Waelti et al., 2001)。
先行研究では条件刺激として様々な視覚刺激が用いられているが、実際の生物の生活場面では、報酬と結びついた刺激は必ずしも知覚的に明瞭なものばかりではない。そこで本研究ではランダムドットモーション刺激を用いて知覚的に曖昧な刺激に対する報酬予測の脳内処理過程をfMRIを用いて調べることを目的とした。初めに被験者はランダムドットモーション刺激の方向と報酬との関係を条件付け学習した。その後、実験セッションにおいて高、低2種類のコヒーレンスのランダムドットモーション刺激を用い、被験者はその刺激がどちらの方向に動いているかボタン押しにより判断し、報酬と関連付けられた方向の刺激に対してはジュースが、反対方向の刺激に対しては人口唾液水が呈示された。これは被験者の方向判断とは無関係に報酬が呈示された。報酬予測的脳活動は刺激の曖昧性の影響を受けているか、更にそれらの脳活動は刺激自身の方向、あるいは被験者の判断方向に依存しているのかという点に注目して刺激呈示時の脳活動の解析を行った。
解析の結果、これまで報酬予測的活動を示すことが知られていた尾状核、被殻は報酬を予測すべき刺激の知覚的曖昧性によって活動が変化し、それぞれが入力刺激の情報、被験者の反応に依存することが示唆された。
行動適応における
前頭連合野の役割
松元 まどか 氏(理化学研究所)
動物は、環境が変化すると、行動を変化させることによって環境に適応する。この行動適応に、前頭連合野がどのような役割を果たしているかを明らかにするため、行動学習課題を行っている最中のサルの前頭連合野の内側部と外側部から、単一神経細胞活動を記録した。この課題では、正解を示す正のフィードバック刺激をサルに教える視覚ブロックと、正負のフィードバック刺激に基づいて正しい行動を学習する行動学習ブロックとが交互に繰り返された。
行動学習ブロックにおいては、行動結果を示すフィードバック刺激が呈示された時に、行動価値の予測誤差を表現する神経細胞が、前頭連合野内側部に多く見られた。また、行動結果を確実に予想することができないとき、フィードバック刺激が呈示されるタイミングに向かって活動を徐々に上昇させる神経細胞が、前頭連合野内側部と外側部の両方に見られた。この活動は、先に内側部に現れ、続いて外側部にも現れた。視覚ブロックにおいては、正のフィードバック刺激を教えるために呈示した刺激が新奇なときに特異的に強い応答を示す神経細胞が、前頭連合野外側部に多く見られた。これらの結果は、(1)行動結果に基づいて行動を評価し、次の行動の調整を導くプロセスに、前頭連合野内側部が主に寄与すること、(2)不確実な行動結果に対する能動的注意によって行動評価を促進するプロセスに、前頭連合野内側部から外側部への情報の流れが重要であること、そして(3)起こした行動とは無関係に生じた環境変化の検出には、前頭連合野外側部が主に寄与すること、を示唆している。
日時 | 2007年3月30日(金)17:00〜19:00 |
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場所 | 研究管理棟5F 502室 |