談話会報告

第11回 談話会 (2006年1月18日/21世紀COE 第11回 若手の会談話会)

方位選択性マップの動径分布解析と
刺激文脈依存性

岡本 剛 氏(ERATO合原複雑数理モデルプロジェクト)


方位マップの特殊な布置が、V1の刺激文脈依存的応答を起こさせる

大脳皮質一次視覚野(V1)のニューロンは方位選択性を示す。しかし、線の傾きに単純に反応するだけではなく、中心と周辺における傾きの差にも反応することが知られている(刺激文脈依存性)。このメカニズムを明らかにするには周囲のニューロンの方位選択性を調べる必要があるが、V1は一見不規則で複雑な方位分布をしているため、いまだ定量的な解析は進んでいない。そこで我々は、サルV1の光学計測実験で得られた方位選択性マップを幅0.05mmの円環に区切り、動径方向の方位分布を調べた。その結果、方位分布が動径方向にある種の周期性を示すことがわかった。

さらに、この方位分布特性とメキシカンハット型V1内部結合から、皮質内の場所によってニューロンの刺激文脈依存性の程度が異なることを示した。この結果は、V1内で輪郭情報と面情報の処理が異なる場所で行われている可能性を示唆する。


STDPトポロジカルマップモデルによる
IT野の情報表現の再現

酒井 裕 氏(玉川大学)


STDP学習を用いると、IT野で観測されている多重的なトポロジカルマップ表現を再現できる

大脳皮質の側頭葉に位置するIT野では、視野上の位置や大きさに依らない形の表現が獲得されている。つまり、IT野ニューロンは視野全体からの情報を受けとっていることがわかる。動物がよく目にする形は、視野全体で可能な全ての形の集合に比べ、はるかに限定された集合となっている。したがって、IT野ニューロンが受けとっている入力集合は、形集合全体の中でクラスター状に分布していると考えられる。すなわち離散的な軸と連続的な軸の組み合わせで表現されるような入力空間となっていると考えられる。ここでは、このような離散性と連続性を併せ持つ最も簡単な構造として、2つの平行なリング上に分布した入力集合を想定し、スパイク時刻依存シナプス可塑性(STDP)にもとづいた結合更新則を用いたスパイクベースのトポロジカルマップモデルに2リング上の入力集合を与えた結果、高スパイク頻度を示すニューロンの重心位置で入力のリング上の位置を表現し、詳細な集団スパイク頻度パターンでリングの違いを表現するような多重表現が獲得され、その反応の性質がIT野で見つかっているニューロンの性質と整合することを示す。

日時 2006年1月18日(木)

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