玉川学園・玉川大学
お米の作り方・売られ方はこれまで何度かかわってきましたが,今回の改正は「お米の自由化」に一歩近づいた内容になっています.
農家の作るお米は「計画流通米(けいかくりゅうつうまい)」と「計画外流通米(けいかくがいりゅうつうまい)」に分かれています.
「計画流通米」には,政府が買い上げる「政府米(せいふまい)」と「自主流通米(じしゅりゅうつうまい)」の2種類があります.「自主流通米」は「自主流通米価格形成センター(じしゅりゅうつうまいかかくけいせいせんたー)」というところで,その年のお米 の出来ぐあいや質によって値段の目安を決めていました.お米は業者によって集められ,そして「お米屋さん」「スーパー」などで売られてきました.
「政府米」は「備蓄(びちく)」といって,災害や戦争がおきたときのために一定量を倉庫にためておきます.備蓄米以外のお米は業者に売られてさらにお米やさんやスーパーで売られました.また,備蓄米も一年間倉庫に保管された後「スーパー」や「お米屋さん」で売られます.
計画外流通米は農家が直接,消費者に売るお米です.これらのお米は「特別うまい!」というのが売り文句になっています.新潟県魚沼産の「こしひかり」.富山平野の「こしひかり」,八郎潟の「あきたこまち」などの有名ブランド米にこうした売り方が多かったようです.これまで「スーパー」や「お米屋さん」で販売することはできませんでした.
現在でも「計画流通米」「計画外流通米」は形としては残っていますが、計画外流通米も「スーパー」や「お米屋さん」で売れるようになりました.さらに年間20トン以上のお米を扱う人や商店では,登録さえすれば自由にお米を売買できるようになりました.また,計画流通米もJAや農家が自由に販売先をきめられるようになりました.
ここでのポイント
これまで、日本のお米の流通や価格を支えていた「計画流通制度」が無くなり,農家やJA(農業協同組み合い)がどこにでも自由にお米を売れるようになりました.
2.減反政策の廃止が決まりました(平成25年11月26日)
平成25年11月26日、政府は減反政策を五年後の平成30年に廃止することを決めました。生産量でお米の価格を維持しようとしてきたこれまでの政策が180度転換されることになります。
1.これまで減反に協力してきた農家に払われてきた10アールあたり1万5千円の補助金を徐々に減額し、平成30年度には0円にします。
2.そのかわりに、「主食用以外のお米」つまり家畜用の飼料用米や米製品の原料となる米粉用米に生産転換をする農家に、現在10アールあたり8万円だった補助基金を10万5千円に増やすことにしました。これによって主食用米の生産が増えないようにします(米価を安定させるための措置です)。
3.これらの措置は環太平洋経済連携協定(TPP)の締結により米が自由化されるまでの間に農家の力を育てておく必要があるからです。生産した量と消費する量によってモノの価格が決まるのと同じように、お米も普通の商品に近づくということです。
4.これからは品質の良いお米を安く作ることに農家は力を入れていく必要があります。しかし、それは少なくなったお米の消費量拡大や「安全で美味しいお米を食べたい」という海外のに要望にも応えるものです。オレンジや牛肉とこれまで多くの農作物が自由化されて、そのたびに日本農業の危機といわれてきましたが、美味しいミカンや牛肉作りで日本は世界でトップレベルの農業製品で自由化を乗り切ってきました。お米もきっとそうなるとゲンボ-先生は信じています。
これまでの減反政策(平成30年に廃止されます)
これまで,政府が決めていた義務的な「減反」の割り当てをやめて,生産地ごとに売れる量の目標を決めて作るようになりました.これは売れるお米を作っている地域も,そうでない地域もおなじように米の生産量をおさえていたのを,実状にあわせて作れるようにしたものです.現在では減反した面積に応じて補助金が出る仕組みでした。
ここでのポイント
売れるお米をどんどん作っていけるようにしています.つまり,「おいしい」とか「やすい」とか「安全」などの特長のないお米を作っているところは,自然に生産量が下がっていくという仕組みですが、生態系に及ぼす影響やもともと生産量の低かった山間地や過疎地域のことを考慮して見直しが求められました。
3.「自主流通米価格形成センター」から「米穀価格形成センター」に変わりましたが、平成23年3月31日をもって廃止されました.
新食糧法が公布されるまで,おもな計画流通米は自主流通米価格形成センターで「目安の価格」が決められていました.しかし,ここで値段が決められていたお米は,有名ブランドやあつかい量の多いお米だけでした.あらたに「米穀価格形成センター」を作り,産地や銘柄や売買の量などによって価格が決められることになりました.(政府が価格をきめるお米は備蓄米などの政府米だけになりました)ところが、その後、流通販売の形態が多様化し、センターでの取り扱いが激減したために2011年(平成23年)3月31日を持って「米穀価格形成センター」も解散されました。現在、米価の指標は「東京穀物商品取引所」と「関西商品取引所」で、他の商品作物と同じように「先物取引」の価格となっています。
ここでのポイント
これまで生産者(農家)を守るために最低ラインの価格を守ってきましたが,これからはお米のとれる量やおいしさによって自由に値段が決められるようになります.つまり買う人の立場がより反映された値段の付けられ方が行われるようになります.難しい言葉でいうと競争によって「市場価格」が決まるということになります.現在ではお米の価格は商品取引所での指標を念頭においた、「相対取引」が主流となっています。(相対取引=需要と供給のバランスで「生産者と販売者」「JAなどの取扱業者間」で値段が決まること。つまり市場原理の上で価格が決められる方法の一つ)
これまで,各地で作られた計画流通米は県単位で集められ,さらに全農という全国組織が管理して「自主流通米価格形成センター」でつけられた値段で,お米を扱う大手の業者に販売されていました.お米を扱う業者になるには,倉庫や取扱量などさまざまな制約がありましたが,これからは年間20トン以上扱うところならば,だれでも「届け出」 だけでお米の販売が自由にできるようになりました.また,これまで販売のできなかった計画外流通米も販売できるようになりました.
ここでのポイント
各地で農家からお米を集めていた農協(JA)は全農で売ったお米の値段から,手数料を差し引いて農家にお金を渡すだけの仕事でした.新食糧法になってからは地区(町や村)ごとの農協も「いつ」「どこに」売るか,利益をもっと上げるための工夫が求められています.
日本は外国にも「お米を自由に輸入してもいいですよ」と約束しました.しかし,それには条件があって「日本国内の農家を守るために」,外国からのお米に高い税金をかけて売れにくくしています.これを「関税」といいます.日本は外国から輸入されたお米に490%(2004年)の税金をかけていますが,輸出国(特にアメリカ)からは「関税率を下げろ」と圧力を受けています.もともと関税は年々下げていく約束をしていましたが,輸出国からは「それでは遅い」といわれています.政府はミニマムアクセスといって,「最低限これだけは買いますよ」という約束をしていますが,それも足りないと輸出国は考えています.
一方国内では「関税率」が下がって日本のお米が売れにくくなる前に,米作り農家の力をつけようと考えています.そのために
1.せまい田んぼをくっつけて広くすること.(大型の機械を使って少ない人数でお米を作る)
2.おいしいお米を作る努力をしている農家.
3.安全なお米を作ろうとして努力している農家.
をたすけるような仕組みを考えました.
また,政府の規制をできるだけゆるめて,お米を自由に売買する仕組みにかえました.
それが今回の改正された「食糧法」です.
今回の食糧法改正は,生産者(米作り農家)の競争力を付けるために,「おいしいお米」「安いお米」を売りやすくした仕組みといえます.しかし,せまい田んぼでほそぼそと米作りをしているところ,特長のないお米を作っているところは競争力がないために収入がへって,米作りをあきらめるところも出てくる だろうと言われています.特に高齢者が多い地域では自家米の生産以外にお米は作られなくなるのではないかと考えられます.
やがて数年したら,お米も他の農産物と同じように自由に作られ,もっと自由に販売されるようになるでしょう.外国からも安くておいしいお米がたくさん入ってきます.国内のお米の価格も下がります.これは消費者にとっては歓迎されることかもしれません.しかし,輸入が途絶えたり,お米の生産が下がれば値段が上がることだってあります.生産者や国全体のことを考えると手放しで喜べることとも言えないのです.
君たちはこのことをどう考えますか?皆さんで話し合ってみてください.
ゲンボー先生
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