1.イチゴ
お米の学習には「お米」以外の質問がよせられることもあります.お米のホームページには載せていませんが,ゲンボー先生が知っていることならメールでお答えしています.今回よせられた「イチゴ」についての質問は「お米」とは直接関係はないのですが,農業についての大切なことがいくつか含まれているので,ホームページにのせました.
藤沢市立浜見小学校5年生 美佳さんより
ゲンボー先生こんにちは。いつもていねいに質問に答えてくださってありがとうございます。
この前、やっと米の勉強が終わりました。みんな、それぞれ調べたことを発表しました.聞いている人たちはその発表を聞いて分かったことをメモしました。全員分メモしていたのでつかれました。そのメモは先生が全員分まとめて印刷してそれをもとにして米の勉強のまとめをしました。みんないろいろなことを調べていてとってもおもしろかったです。
今度は野菜調べをします。
野菜だけでなく畑で作っているものは何でもいいみたいです。牛とかミルクのことを調べる人もいます。私は、イチゴのことを調べたいと思いました。でも学校の図書室や近くの図書館にはくわしい本がありませんでした。私はイチゴとビニールハウスの関係を調べたいです。イチゴはどうしてビニールハウスで育てるのですか。あと、びっくりしたのがイチゴはやわらかくて傷がつきそうなのに外国で作ったイチゴを日本が買っているなんてすごいと思いました。でも、どこの国のイチゴか書いてなかったのですが日本はどこからイチゴを買っているのですか。
ゲンボー先生
先生は畑作も得意なのですが,残念ながらイチゴについては専門ではありません.しかし,知っていることをお話しましょう.
イチゴは大和朝廷のときから「いちひこ」と呼ばれ,都に運ぶ献上品のリスト(木簡=もっかん=木で作った札)にも書かれているくらい,日本人には古くからなじみのある果物でした.当時のイチゴがどんな種類かわかってはいませんが,そのうち遺跡から出る「種」などで明らかになることと思います.
イチゴは面白い性質を持っている果物で,普通は「種」をまいて育てるというということをしません.通常イチゴは5・6月に実を付けますが,実が終わると夏の間に「ランナー」という「つる」をのばして,そのランナーの先が地面につくとそこから根が出て新しいイチゴの株(かぶ=この場合は苗のこと)ができるのです.そして,さらにその新しく出た株からまたランナーが出て次の株ができて,またそこからという具合にだいたい5〜6の新しい株を作り上げます.農家の人は新しい株の2番目と3番目を切り離して,翌年の新しい苗にします.不思議なことに最初の大きな株からは良い実が取れないのです.4番目以後も同じだそうです.
イチゴは君も知っているように非常にいたみやすい果物です.ですから摘み取ってから出荷され,お店に並ぶまでに速く運ばなくてはなりません.今は冷蔵技術も発達したので売る前に腐ってしまうなんていうことはありませんが,昔は大変でした.
先生が子供の頃はイチゴに傷をつけないように木の箱に柔らかい紙をしいて,お行儀よく並べられていました.それに本来の結実期(けつじつき=実が出来る季節)である5.6月くらいにしか売られていませんでした.
さて,普通イチゴは他の作物のように畑で作られますが,第2次世界大戦が始まる前頃から,冬でも温かい静岡県の農家で「石垣イチゴ」の栽培が始まりました.
日当たりの良い土手に15センチ〜20センチくらいの石を積み上げ,石と石の間をあけてそこにイチゴを植えるという方法です.これですと日当たりもよく日中温まった石の温度で夜も暖かく,イチゴの成長が早まるというわけですね.
どんな作物でもそうですが,自然のままに育てるとその作物にとって一番自然な時期に花が咲いて,一番自然な時期に実が熟します.これを「旬」(しゅん)といいます.旬の食べ物は美味しくてしかもたくさん出来るから安いのです.これは魚もおなじです.しかし,農家にしてみれば収入ということがありますから,本来だったら出来ない時期にその作物を作れば,珍しくて高く売れますよね.ということで,石垣イチゴはあっという間に,都市に近くて暖かい条件をそなえているところに広がっていきました.まだ寒い時期にイチゴが出来るからです.
この場合,都市に近いということがとても大切なことなのです.どんなに暖かくても運んでいる間にいたんだりしたら,全く意味がないからです.
さて,時間はどんどん今に近づいてきます.
ビニールハウスは,年間の農家の作業にものすごく大きな変化を与えました.ビニールハウスを見たことあるでしょ・・・
昭和の10年代頃から高知平野でガラス張りの温室野菜栽培というのが始まりましたが,途中で戦争があったり,大きく作れなかったこともあって,全国へ広がるには昭和30年代になってからでした.当然イチゴ農家もこれを取り入れました.今でも静岡県の三島とか下田,それに久能山あたりではたくさんのイチゴ温室を見ることが出来ます.
そして,昭和40年代になると一般農家にも安く作れるビニールハウスが普及(ふきゅう=ひろまること)すると,今までと違った時期に野菜が作れるようになりました.今ではビニールやガラスによる温室栽培はごく当たり前のことになっています.おかげでキュウリやナスやトマトそれにピーマンといった夏野菜を冬でも食べられるようになったのです.多分,美佳さん達は今書いた野菜が,昔は夏しか食べられなかったなんていうこと知らなかったでしょ ・・・その反対に冬の野菜も夏に食べられるようになっています.これは,高速道路が日本中に出来たことと,冷蔵トラックが普及したからです.
涼しいから,秋野菜や冬野菜を夏に作ることが出来るのに,以前は運ぶ手段がなかったために作る事が出来ないところが各地にありました.ところが今言ったように,交通が便利になると,遠いところでも作る条件が整って,夏に秋や冬の野菜を作る事が出来るようになりました.山梨県や長野県の八ヶ岳山ろくで作られるキャベツやレタスなどの高原野菜はその良い例です.
ここまで書けば,美佳さんは分かるでしょう.
ビニールハウスが出来ただけではイチゴは作れないって・・・都市に近いところなら大丈夫なんだけど,離れているとイチゴのようなデリケートな果物は作っても腐っちゃうからです.このメールを見たら今日はスーパーへ行ってイチゴを見てください.「とよのか」とか「とちおとめ」とか,かいてあるイチゴがどこから来ているか?
今はトラックで一日,飛行機なら半日で朝に収穫したイチゴが食卓に並べられる時代になりました.
ここで,まとめます.
1.作物には自然の旬がある.たくさん取れてうまくて安い!
2.農家にとっては,時期をずらして作ると珍しいので高く売れる.
3.自然条件を変えて作物がつくれても,その他の条件がそろわなくては売れない.特に交通が重要.
ですね.今では夏でも冬でも一年中イチゴが食べられる時代になりました.しかし,よく観察してみると季節によって取れる地域が違っていたり,値段が変わっています.
農家にとって一番儲かるのは,数の少ない,おいしい作物です.イチゴやピーマンなどをずーと観察していると,いつどこで作られたか,それはなぜなのかが分ってきます.
最後に.君はイチゴを作っているところを見たことがありますか?農家の人は害虫や土のはねかえりによる病気を防ぐために「わら」を敷いたり,いらない小さな実を取ったりとそれは大変な作業をしています.農家の人は収入を増やすために,新しい技術や社会の動きも知らなくてはなりません.その上毎日地道な農作業もしなくてはなりません.何気なくスーパーの棚の上においてあるイチゴですが,その裏側にこれだけのことがあることを知ってくださいね.
さて,外国からの輸入イチゴですが「生」のものではなく,ペーストといってジャムのようになったものや,冷凍されたものです.また濃縮されたジュースのようなものもあります.これらは,イチゴジュースやジャム,あるいはお菓子の原料として輸入しています.主にアメリカですが中国やブルガリアなんていうのもあります.もっとも,最近ではカリフォルニア(アメリカ)から飛行機で運ばれる生のイチゴもお目にかかることが出来ますが,その量はまだまだ少ないですね.
もう一つ教えてほしいことがあります。友達が、野菜につく害虫のことについて調べたいと言っています。でも、資料があまりないそうです。私が、誰かに聞いたら、と言いましたが友達は、誰に聞いたらいいかわからないと困っていました。どういう風に調べたらいいでしょうか。どんな野菜にどんな害虫がつくか、とか調べたいって言ってました。では、答え待ってます。よろしくお願いします。
先生は趣味で畑で野菜を栽培しています.ですから畑にいっぱい虫が来ることを知っています.それでは経験談・・・野菜の種類によってつく害虫の種類が違います.ただし害虫にもオールマイティなのがいて,これらはたいていの野菜につきます.
ヨトウ虫
ヨトウ蛾の幼虫で土の中に住んでいる芋虫です.土と同じ色をしているので分かりにくい上に,夜活動するため初めは中々わかりません.ヨトウ虫を漢字で書くと夜盗虫です.キャベツ,白菜.ブロッコリ,などの油菜科の作物はもちろん,大根,キュウリ,ジャガイモなどの苗を食い荒らします.昼間は根もとの土の中で寝ていますから,ほじくり返すとでてきます.しかし,広い畑でそんなことをやっていたら,他のことが出来なくなります.そこで農薬をまくのです.
コナガ
小さい小さい蛾の小さい小さい幼虫です.葉っぱの裏側にびっしりついて食い荒らします.これも油菜科の植物を中心にしっかりつきます.あっというまに葉っぱが葉脈だけになってあとはスケスケのレースみたいになります.これも農薬なしには駆除(くじょ=取り除くこと)できません.
青虫
かわいいモンシロチョウの幼虫ですが,キャベツの大敵です.モンシロチョウは葉っぱの裏側に小さな真珠のようなカワイらしい卵を産み付けていきますが,これがかえるとさあ大変.バリバリ葉っぱを食べてどんどん大きく成長します.そしてサナギになってモンシロチョウになってまた卵を産むのです.これも農薬が必要です.
ここまで書くと分かると思いますが,蛾や蝶の卵は葉っぱの裏側に産み付けられます.そして幼虫も主に葉っぱの裏側で活動します.ですから害虫を探すときには葉っぱの裏側を見るということです.表だけ見て「大丈夫」なんて思ってると大変です.農家の人はちょっとでも害虫を見つけると少ないうちに農薬をまいて駆除します.こうすると農薬の量も少なくなるし,植物も大きなダメージを受けずにすむからです.もちろん葉っぱの裏側に散布(さんぷ=まくこと)します.
あとは,まだまだたくさんいるけど・・・
アブラムシ
ゴキブリではありません.「ありまき」と呼ばれる小さな虫で,植物の養分を吸いとってしまいます.一匹ずつは小さいのですが,猛烈な勢いで増えていきます.普通の動物はオスとメスがいてそれで増えるのに,このアブラムシちゃんは無性生殖といって,オスメス関係なしに卵を産んで増えちゃうのです.
みずみずしい若芽や葉っぱが見る見るしぼんでちじれてしまいます.よく見ると蟻がせっせと歩き回っています.蟻はアブラムシを新しい葉っぱに運んでいます.なぜならアブラムシのお尻から「甘い樹液」が出てくるからなのです.アブラムシが「ありまき」と呼ばれるのはそうしたことからなのです.お互いに助け合っているわけですね.で,これも農薬シューでなければ駆除できません.
かわったところでカメムシ
なんとトウガラシにつきました.トウガラシは強い植物で自身も虫を殺すくらいの強い毒性を持っていますが(人間には無毒),あの臭いカメムシちゃんにはききません.先生はトウガラシは大丈夫!!なんて思ってたらこれにやられてしまいました.悲しい・・・
と,書いてきましたが「きり」がありません.こうしたことは「家庭菜園」などの園芸関係の本に書いてあります.中には難しいのがあるので「立ち読み」でやさしいのを探して.いいなあと思ったら,お小遣いで買ってくださいと伝えてね.
大切なこと
植物は本来病気や虫から身を守る物質を持っています.強い生き生きとした野菜はこれがいっぱい出てきますから,なかなか病気にもならないし,虫もつきません.最近では農薬が人間に良くないということから「無農薬野菜」とか「低農薬野菜」というのが作られるようになりました.
肥料も工場で作る合成肥料ではなく,葉っぱを醗酵させて作る昔ながらの腐葉土や堆肥を使ったり.鶏糞(けいふん=ニワトリのウンチ)や牛糞(ぎゅうふん=牛のウンチ),あるいは骨紛(主に豚の骨を粉にしたもの)あるいは,菜種油(なたねあぶら)の絞り粕(しぼりかす),イワシの粉のような自然の肥料を使うところも増えてきました.こうすると土も良くなるし栄養も満点だからです.なにより,こうして野菜を作ると丈夫だから農薬の量も少なくてすむのだそうです.
健康的な食べ物を作ろうという動きはどんどん広まり,君たちが大人になる頃には今までとは違った害虫駆除の方法が広まると思われます.例えば
1.「天敵」(てんてき)というその害虫を専門におそう虫の力を借りる.(これはすでに始まっています)つまり天敵となる虫を増やして売る会社があるということです.オランダやアメリカが進んでいます.
2.子供が出来ないように遺伝子(いでんし=動植物の形や成長を決める物質)を組替えた害虫を作り,これを自然に放して徐々にその種類を減らしていくという方法もあります.
3.フェロモンというその虫独特の引きつけ物質を使っておびき寄せて,一発で虫を駆除してしまう方法もあります.
4.植物自身に害虫を殺す物質をたくさん作らせる研究も進んでいます.
虫や病気は農業の敵です.農薬が出来てから世界の農産物の生産量は飛躍的に(ひやくてき=ものすごく)増えました.ですから農薬を使うことそのものは悪いことではありません.しかし,環境保護や健康の点から農薬の見なおしも始まっています.
科学は人間の生活を豊かにするものですが,扱い方が大切ということですね.
イチゴのことも農薬のことも,あとは自分で調べてみてください.全部教わっちゃうと面白くないでしょ・・・では,頑張ってくださいね.そのお友達にもよろしく.
ゲンボー先生