外国語科における資料の利用(中学校)
「学校図書館の活用実践事例集」(第一法規出版)より
玉川学園全人教育研究所
大谷千恵
異文化理解やコミュニケーション能力の育成は、英語教育の目標の1つであるが、実際の英語授業でその目標を達成することは容易ではない。ここでは、インターネット上の資料を活用し、英語を通して異文化理解を深める方法を紹介する。
1. 英語科における資料の利用
学習指導要領では、異文化理解(国際理解)・コミュニケーション能力の育成が目標に掲げられている。また、「指導計画の作成と内容の取扱い」では、生徒の実態や教材の内容に応じて、コンピューターや情報通信ネットワークの有効活用について記述されている。しかし、限られた時間の中でカリキュラムに沿って異文化理解の機会をつくることは容易ではなく、また、教科の知識を系統的に構成した教科書だけでは不充分である。
生徒の興味・関心は、彼らの情緒面にうったえる情報、特に実在する「人」が介在する情報によって喚起されることが多い。インターネット上には、従来の図書文献にはない最新で「顔が見える」情報が豊富にある。そのような情報を精選し、生徒の学習段階に合わせて活用していくことがこれからの英語教育には必要である。当然のことながら、図書館もネットワーク化されたResource
Center として変わっていかなくてはならない。ここでは、インターネット上の資料を英語のカリキュラムの中に取り入れた実践例を紹介する。
私は、生徒がいつでも(インターネットに接続さえできれば)英語学習と異文化理解の支援を受けられるResource
Centerとして、「On-line授業」というホームページを作成した。このホームページは、教師がカリキュラムに合わせて精選した資料だけでなく、生徒の作品や海外からのメッセージも資料として蓄積し、生徒の学習過程の記録、更にカリキュラムや指導の公開の役割も果たしている。目的は、生徒の興味・関心を喚起することにあり、「人・人との関わり」に重点を置いている。現在は、普段の授業と組み合わせて、定期的に英語授業の中で活用しているが、常時アクセスできるようにしておけば、他教科でも学習内容が重なる範囲で活用することが可能である。
参照:http://www.tamagawa.ac.jp/sisetu/kyouken/A1
2. 学習指導案
単元名 「Living in Africa」 第2学年
ここで取り上げる学習指導案は、「情報」の授業を中学1年の時に受けている生徒を対象としている。
単元設定の理由
アフリカの話は、多くの教科書で扱われている題材であるが、一般的に自然や貧困に関する話題に偏っている。そこで、生徒がアフリカのホームページに直接アクセスすることにより、アフリカの多様な側面を垣間見させることができる。更に、「自己」と「他」を意識し始める中学生にとって、様々な生活習慣や文化に触れ、人々の多様性に着目することは大切である。
指導目標
_F0B7
英語を通して異文化への興味・関心を喚起し、英語学習の目的意識や動機を高める。
_F0B7
歪みがちなアフリカに対するイメージを見直す。
_F0B7
世界の身近さと文化の多様さに気がつくこと。
(4) 指導計画(7時間)
この指導計画は、定期的に普段の授業に組み合わせていく。従って、生徒の実情に合わせて内容は変化し、特に第5時以降は多様な展開になると考えられる。
第1時
教科書で扱われているアフリカの題材を読む(文法に重点を置く)。
第2時
重要な文法項目を復習しながら、教科書の内容を掘り下げ、生徒にアフリカについて色々イメージさせて、「On-line授業」への動機を高めさせる。
第3時
ホームぺージ「On-line授業」にアクセスして学習する。学習動機を高めることが目的である。特にEthnic groupsに焦点を当てて、アフリカの多様さを実感させる。
第4時
ホームぺージ「On-line授業」にアクセスして学習する。学習動機を高めることが目的である。特にA life of an African studentに焦点を当て、自分と同年代の少女の生活について想像させる。
第5時
生徒が第3, 4時で疑問に感じたことなどを英文で書かせ、アフリカを紹介したホームページの作者へ手紙を書く活動に入る。授業では普段の授業内容(教科書や文法の学習)に戻っているので、英文手紙は、(普段の授業と平行させながら)個別に指導するか、家庭での学習や夏休みなどを活用するとよい。
第6時
ホームぺージ「On-line授業」にアクセスして学習する。生徒が書いた手紙を事前に教師がホームページ上に更新しておき、それを生徒が英文手紙の復習に活用する。これまでと一貫した学習の流れをつくる。
第7時
ホームぺージ「On-line授業」にアクセスして学習する。第4時から、生徒達は一夫多妻のアフリカの家族形態に強い興味・関心を示した。単なる興味本位で終わらせないように、"Marriage & Wedding"というホームページを作り、様々な国や民族、宗教の多様な結婚について学習する。
(5) 評価
教師による評価だけに頼らない。生徒が書いた手紙などに対する海外からのコメントやメッセージが生徒にとって励ましとなると同時に外からの評価となる。生徒は教師からの評価だけではなく、自身の学習達成感を自分の評価と受け止められるようにしたい。ただし、アンケート調査などを行い、教師の指導方法や生徒の質的な学習を確認することは大切である。
(6) 本時の学習(第7時)
結婚や結婚式を通して、多様な文化、民族、宗教について学習する。海外の実際のホームページを見せるため、英語はかなり高度なものになる。そのため、日本語の補助フレームを海外のホームページを見るフレームの横につけた。
(Marriage & Wedding)
@目標
異文化理解を深めるとともに、英語学習の興味・関心を喚起することを目標とする。言語としての英語よりも異文化理解の「道具としての英語」を体験させる。
A展開例 (50分授業)
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内容 |
備考 |
時間 |
準備 |
教師は、ホームページ上に"Marriage
&Wedding"に関する資料をリンクして用意しておく。 |
技術的な問題が最小限となるように準備する。ホームページ作成の他、ワークシートやアンケートの作成など。
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導入 |
今日の授業の流れの説明 _F0B7
"Marriage
&Wedding"のホームページを使って説明。 _F0B7
キーワードの英単語リストの配布
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生徒同士が協力して学習できるような配置にしておく。 生徒に本時の学習の全体像を抱かせる。 |
10分 |
展開 |
個別学習 リストにある13の外国のホームページを閲覧し、ワークシートを使って多様な結婚や結婚式について各自学習する。
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コンピュータ操作などのサポートと学習のサポートを行う。
気がついたこと、疑問や質問をワークシートに書き込ませる。
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30分 |
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アンケートの記入 |
生徒は、本時の授業評価を行う。その回答を基に次の授業の内容を精選する資料とする。
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10分 |
まとめ |
まとめ&意見交換 |
どんな学習をしたのか確認 気がついたこと、疑問や質問などを交換 |
10分 |
Q&A
Q: 異文化理解教育をいつ、どこで、どのように取り入れたらいいのですか。
A: 教科書で取り扱っている異文化の題材、身近な外来語、挨拶や表現の違いなど、異文化理解のきっかけは身近にあると思います。生徒の実態やコミュニティなどを考慮に入れて、学習と題材のタイミングを逃さないように心がけています。
Q: 異文化理解を取り入れた授業における評価はどのようにすればいいのですか。
A: 評価には、生徒に対する評価と授業評価(教師の指導評価)があると思います。生徒個人の異文化理解を教師が短期的に評価することは難しいので、その授業が生徒の興味・関心を喚起できたかどうかに絞った授業評価を行っています。