稲村ヶ崎の黒い砂

稲村ヶ崎では白い砂に混じって、キラキラ光る真っ黒な砂が目につきます。これは砂鉄といって鉄の一種で、昔の人はこの砂鉄を「たたら」という炉でとかし、刃物や「なべ」「かま」を作りました。

鎌倉時代になると全国に製鉄の技術が広まり、多くの鍛冶(かじ=鉄製品を作る人)がいたと言われています。なかには船に乗って諸国を回り鉄製品を作る職人集団もありました。ところが発掘をしてみると鉄製品は意外に少ないのです。これは当時鉄が貴重品だったためにさびたり、こわれてしまった鉄製品を再び溶かして作り直したからなのです。今で言うリサイクルですね・・稲村ヶ崎の砂鉄もこうした製品を作る原料になったことでしょう。記録によると江戸時代まで砂鉄がとられていたようです。現代も工房を作って鉄を作っている人がいるそうです。

ところで稲村ヶ崎の砂鉄ですが、鉄以外にマグネシウムやカルシウム、珪素などの物質も多くふまれているために刀の原料である「玉鋼」(たまはがね=純度の高い高品質の鋼)を作るのは難しかっただろうと言われています。しかし、鍋や釜それに包丁程度の鉄でしたら十分に作ることはできたと思われます。今後発掘でそうした工房跡が見つかるかもしれませんね・・

稲村ヶ崎では海の底に砂鉄の層があって、そこから砂鉄が浜辺に打ち上げられるのだそうです。普通に考えると塩水で錆(さ)びてしまうのではないかと思いますが、砂鉄は結晶体なので錆びないのだそうです。面白いですね。

稲村ヶ崎の砂を顕微鏡で見てみました。赤丸が鋼の原料である磁鉄鉱です

参考  日立金属「たたらの話」