8.Psychological Experiment -3-

Effect of duration of stimulus presentation

on direction -perception

 刺激呈示時間と方向認知の関係を調べた。

8.1 Method

 刺激パターンの呈示時間を段々と短くしていき、パターンの移動した方向を口頭で答えてもらう。

fig13.gif

 

8.2 Psychophysics 3

 1次運動の方向認知は短時間呈示でも9割以上の正答率が得られたが、2次運動の方向認知は呈示時間が0.5秒以下になると正答率が大きく下がった。

14 呈示時間変化による方向認知

 

9.Discussion

 心理的認知特性の結果とMT野細胞、MST野細胞の反応特性をもとに、2次運動の脳内処理メカニズムについて考察する。

9.1 Physiological Consideration

 MT野、MST野において仮説1に基づき、2次運動の反応特性を調べたわけだが、仮説を立証するには至らなかった。確かに2つの領域において2次運動に対して反応した細胞も存在したのだが、それは全体からするとごくわずかであり、またその反応も単なるON−OFF反応である可能性も捨てきれず、反応量を見ても1次運動に比べ2次運動に対しての反応量は圧倒的に低い。ところが、2次運動に対してのの知覚は1次運動に対しての知覚とそれほど大きくは違わないので、もしもMT野、MST野がその処理に関係しているとすれば、この領域で大きく反応してもおかしくはない。確かに心理実験と生理実験とでは、覚醒下と麻酔下という違いがあるものの、この反応特性の違いから2次運動の情報処理にMT野、MST野はあまり関与していない可能性が出てきた。

 

9.2 Psychological Consideration

Motion adaptation

 結果からテクスチャ差の2次運動に対しても運動残効は起こらず、1次運動に対しのみ生じたことから、1次運動と2次運動は独立のメカニズムによって処理されているように考えられる。1次運動と2次運動が混合しているTheta運動の刺激に対しては運動残効が生じたが、その残効が生じた方向は、テクスチャ要素の1次運動に対する残効の方向と一致することが全員の被験者から報告されている。つまり、このTheta運動に対しての運動残効は、バンドを構成するテクスチャの動きに対して起こったと考えられる。バンドの境界のシフト方向、即ち2次運動に対して、起こるべき運動残効とは逆方向であった。

 

Effect of duration of stimulus presentation

on direction -perception

 短時間呈示という条件で生じる1次運動と2次運動の方向認知の正答率の差は何が原因なのだろうか?2次運動はその方向認知するのが難しいのではないかということである。0.7秒以上呈示すると2次運動の方向認知もほぼ100%の正答率となることを考えると、次のような解釈も成立し得る。即ち、MT野あるいはMST野の細胞が、2次運動刺激の短時間呈示に対しては、反応が弱く、呈示時間を長くしていくと反応が弱く、呈示時間を長くしていくと反応が増加していき、呈示時間が0.7秒程度になると1次運動に対する反応と同等になるという解釈である、しかし、本実験で2次運動を1秒間呈示しているにもかかわらず反応が非常に微弱であったため、この解釈はあてはまらない。従って2次運動の方向認知はどこか別の部位が大きく反応して処理されている可能性が高い。

 

 では、2次運動はどうやって検出されるのだろうか?このテクスチャ差の2次運動は、テクスチャの差が境界となり、その境界がシフトすることによってバンドが動いているように知覚できる。つまり、個々のテクスチャの要素の運動ではなく、テクスチャのサイズの差を検出し、そして境界のシフトつまりバンドの運動につながっていくのではないだろうか?であるとするならば、まず、テクスチャの細かさという模様を分析している可能性が高いと思われる。

fig15.gif

よって次のような仮説が立てられる。

「2次運動を検出するために、形の情報処理経路がなんらかの関与をしている」

 

 

10.Conclusion

 生理実験、心理実験からMT野、MST野は、2次運動の情報処理に関与していないか、あまり重要ではない可能性が示された。そしてテクスチャパターンの特徴の違いから2次運動を検出する可能性が示されたことから、2次運動の情報処理には、形態の処理経路がなんらかの形で関与しているという考えが導き出された。

 また、2次運動がMT野、MST野より高次の領域で処理されているとして、考えられる部位はFST野と呼ばれる部分が上げられる。この領域は形と運動の情報を統合している領域で、これまでの実験結果から2次運動に対しても反応する可能性が高いと考えられる。

 

 これらの結果、考察を踏まえ、運動情報処理経路だけでなく、形の情報処理経路に対しても反応特性を調べ、更に別領域での実験などの比較検討を行っていく必要があると考えられる。