5. Psychological Experiment -1- motion detection

5.1 method

 ディスプレイから被験者までの距離を30cm(視野角にして、60x60°)に保った状態で、部屋を薄暗くし回りの光の影響を軽減して心理実験を行った。前節で説明した2次運動刺激パターンをいろいろな方向にランダムに呈示、バンドのスピードを4段階に上げていき、被験者に運動の有無及び方向を口頭で答えてもらった。

5.2 Psychophysics 1

 運動のスピードは4段階、すなわちspd1:20(deg/sec),spd2:39(deg/sec),spd3:56(deg/sec)を用意する。図からもわかるとおり、ほとんどの被験者は呈示された刺激パターンに対して運動を認識し方向も知覚した。呈示時間に制限は持たせなかった。しかし、どの程度時間呈示されれば認知できるのかどうかの実験は後述する。

fig7.gif

 この結果より、2次運動刺激パターンを見せたとき心理的には、2次運動を運動と認知し、運動方向を認知していることがわかる。運動を認知している以上、脳のどこかに2次運動の情報を運動情報として処理し、検出している細胞が存在しているということである。従って第一に、次のような単純な仮説が立てられる。

仮説1

「2次運動が運動情報として処理されているならば、運動情報のほとんど全てを処理し検出している、MT野、MST野に2次運動の情報を処理するメカニズムが存在する。」

 そして、この仮説が事実ならば1次運動と、2次運動は共通のメカニズムによって処理されている可能性が高くなる。私たちは、初めにこの仮説を検討するさまざまな実験を試みた。

 

6. Physiological Experiment

6.1 method

 2次運動がどこで処理され検出されているのか、その経路及び、部位を特定するために、まず運動情報を処理しているMT野、MST野において2次運動に対する反応特性を金属微小電極による単一細胞記録法を用いて調べた。また同時に1次運動に対しての反応特性も調べ、その比較を行った。記録する細胞の最適方向(Stimulus-1a,1b)と最適速度、周辺抑制(Stimulus-2)を予備刺激を用いて確認した後、各細胞に合わせた2次運動刺激パターンを与える。もし、周辺抑制が存在したり、MT野細胞である場合は、刺激パターンの呈示範囲を興奮性受容野の大きさに合わせる。そして、その時の細胞の活動状態を記録する。最適方向を調べる刺激は、MT野とMST野でそれぞれ別の刺激を与え調べた。測定時には、前の運動刺激に対する細胞の活動が次の運動刺激に対する細胞の活動に与える影響を低減するため、前の運動刺激画像と次の運動刺激画像の間に、基準画像(静止ランダムドットパターン)を一定時間(1秒間)呈示した。運動刺激画像の呈示時間は1秒間である。本来ならば、方向のチューニング特性も調べるために、2次運動を360°回転させるべきなのだが、プログラムの作成の都合上、今回は順方向、逆方向のみの順序で呈示した。

 

6.2 Visual stimuli

生理実験で使用した運動刺激パターンは6種類あるが、基本的には各細胞の最適方向に対しての順方向、逆方向の1次運動刺激パターンと2次運動刺激パターンである。まず1つ目は、バンドの数が4つの2次運動、2つめはバンドの数が8つで、空間周波数を倍にしたもの。そしてそれぞれを荒いドットの動きを固定し、細かいドットをランダムに動かし、バンドがstationaryなものとdynamicなものの2つで構成された2次運動、更に1次運動と2次運動を組み合わせた混合運動。そしてバンドが白と黒で構成された1次運動の計6つである。それぞれの2次運動と1次運動の刺激パターンは、全て時空間プロットで表記してある。この表記ではバンドが傾けば傾くほど、運動速度が速いことを示している。

fig8.gif

6.3 result

 私たちは、2匹のマカクサルで18個のMT野細胞と、14個のMST野細胞に対して1次運動と2次運動に対する反応特性を調べ、比較検討を行った。その結果、まず第一にわかった事は、MT野、MST野で記録した全ての細胞で、2次運動に対する反応は1次運動に対する反応に比べてほとんど無視できるほど弱いということである。そのわずかな2次運動に対する反応MT野、MST野の細胞を分類すると3種類に分類できた。TypeAはどの2次運動にも方向選択的に反応した細胞(%)、TypeBは2次運動にも反応したが方向選択性を持たない細胞(%)、TypeCは2次運動に反応しない細胞(%)の3つである。なお、Theta運動に関しては特別な刺激であるため別に示す。

6.4 Responses of MT cells

 6ページに、MT野細胞のうち全ての2次運動に方向選択的に反応した細胞の代表データを示す。2次運動に反応したものの、1次運動に対する反応に比べて非常に弱いということに注目されたい。ここに示した例以外の細胞では、その反応がノイズと間違うほど小さく、ヒストグラムを見る限り、その反応は、テクスチャの切り替わりによるちらつきのON−OFF反応であると考えられるものが多い。

 

6.5 Responses of MST cells

 MST野細胞の反応特性を次ページに示す。MT野細胞の場合と同様、まず気付くのは、2次運動に対する反応が1次運動に対する反応に比べて非常に弱いということである。微弱な反応ながらも方向選択性が認められたものと、認められないものの割合はそれぞれ、50.0%と50.0%と同じになった。方向選択性がないもののうちわけでは、無反応のものは0個であった。何らかの反応が出たものが全てを占めている。しかし、これもMT野のものと同じく、ON−OFF反応である可能性が高い。MT野に比べると、いずれかの2次運動に対して方向選択性をもつ細胞の割合が多く、半分は反応したという結果である。

 

 これらの例は全データの中から、2次運動に対する反応が最も大きかったものを代表として示したのだが、それでも1次運動に対する反応に比べてごく弱いことが注目される。