美しいオニヤンマも死んでしまうと眼は褐色に変色し、しっぽの黄色い帯も黒ずんで、その大きさだけでやっとオニヤンマと判別できるだけになる。昨年四月から毎週高尾山で蛾の採集をすることになった仲間の一人にそのことを話すと、私が変色しないオニヤンマの標本を作ってさしあげましょうと言ってくれた。その作り方を蛾が来るのを待っている間に少しずつ聞き出すと、瞬間冷凍乾燥をするのだということがわかった。なるほどドライフラワーを作るのと同じ手法なのだ。きれいな花も押し花にして徐々に乾燥させると色あせてしまうものが多い。以前友人とやった絵と蝶の展覧会に来て下さったお客さんから、原色押し花という技術もあることを耳にはさんだが、その技術はまだ聞かないままになっている。
ギンヤンマはオニヤンマ程は大きくはないが、かっこよさの点ではオニヤンマをしのいでいる。オニヤンマと違って大きな池の上や広い野原など開けた場所を好む。そして子供の手の届かない比較的高所を悠々と飛ぶ。いつかまちがえて降りてくる瞬間がないものかと下から首を直角に折り曲げて見上げている子供をあざ笑うかのように、ほとんど羽ばたきもせず行きつ戻りつ旋回する。長いあみを思いきり振っても、飛翔の名人であるギンヤンマにとってはそれをかわすことぐらい朝飯前なのである。しかしその自信過剰が身の破滅を招くこともある。執念深い子供が予測不可能な程網をジグザグに振り回すとたまたま入ってしまうことがある。そうやって採らえたギンヤンマをしげしげと見ると、複眼は青っぽく輝き、しっぽはチョコレート色で、オスでは胴体の黄緑色とのつなぎ目に涼しいブルーが配されている。オスはギン、メスはチャンと別々の名をもらっている。
採るのがなかなか難しいギンヤンマを上手に採る方法が昔から伝えられていることを何かの本で読んだ。それによると二十〜三十センチの長さの糸の両端に小さな石を結び付け、それを飛んでくるトンボの手前に投げ上げる。するとトンボは小石を追いかけ、糸に触れてその糸が体にからみつき、小石とともに落ちてくるというのである。僕もそれを一度試してみようと、小石付きの糸をいつも庭の木の枝にぶら下げてあるのだが、これまでに一度もそのチャンスに出会っていない。
玉川学園には、クロスジギンヤンマが住んでおり、三年程前学生と奈良池を散歩したときオスが一頭採れた。クロスジギンヤンマはしっぽのチョコレート色の中に瑠璃色の斑点をちりばめており、ギンヤンマより一段と美しい。今度出会ったらクロスジギンヤンマにこの方法を試してみたいと思っている。