水環境の現状

近年のわが国の水質状況は、カドミウム、シアンなどの人の健康にとって有害な物質については、ほぼ環境基準を達成しています。
一方、生活環境の保全に関する項目に関しては、代表的な水質指標である生物化学的酸素要求量(BOD)または化学的酸素要求量(COD)の環境基準の達成率が依然として低く、特に湖沼、内湾、内海などの閉鎖性水域や都市内の中小河川において著しくなっています。
これらの水域での生活排水による負荷量は大きく、その対策の充実が急務です。

●水質汚濁の現状をまとめると次のようになります。

閉鎖性水域(湖沼、内湾、内海)や都市内の中小河川での有機汚濁が顕著である。
・閉鎖性水域ではりんや窒素などの“栄養塩類”の流入によっていわゆる「富栄養化」が進み水質が累進的に悪化している。
・水銀やPCBなどの有機物質による蓄積性の高い汚濁が問題化している。
・工場などの事業所からの排水に関しては規制による効果が現れてきたが、各家庭からの排水(生活排水)による汚濁負荷の量が増大している。
・トリクロロエチレンやテトラクロロエチレンなどの有機塩素化合物による汚染(特に地下水汚染)、有機スズ化合物(TBT、TPTなど:船底塗料などとして利用されている)による汚染、農薬による汚染、など水質保全に関する課題が多様化・複雑化している。

●生活排水

調理、洗濯、入浴などの人の日常生活に伴い排出される生活排水は、今日の水質汚濁の原因として見過ごすことのできないものとなっています。
このような状況を踏まえ、1990年6月に水質汚濁防止法などの一部を改正し、生活排水対策の総合的推進に関しての規定を設けたところです。
今後、生活排水処理施設の整備、普及啓発などの対策を総合的に推進していく必要があります。

水質保全に向けた取り組み

水質保全の基本的な枠組みを定めたものが「水質汚濁防止法」です。

●水質汚濁防止法

1970年の第64国会、いわゆる公害国会において、旧水質二法の実施を通じて得られた反省の上にたって制定された水質汚濁防止法は、公共用水域のすべてを対象として、特定事業場(特定施設を設置する工場、事業場)からの排水を規制するものであります。
また、その後の改正により水質総量規制の制度化、地下水汚染の未然防止などの制度化、生活排水対策の制度化が規定されています。
水質汚濁防止法に基づく従来の濃度規制だけでは水質環境基準を維持達成することが困難と認められる広域的な閉鎖性水域を対象にして水質の改善を図るため水質総量規制が制度化されました。
当該水域に流入する汚濁負荷量の総量を効果的に削減するため、産業系、生活系など発生源別の削減目標量、それを達成するための方途などを定め計画的に実施しようとするものです。

●環境庁では、現在、水質保全に向けて次のような取り組みを行っています。

・全国の公共用水域において水質の測定を継続的に実施しています。水質環境基準に係る健康項目については、平成5年3月に環境基準が改正され、新たな環境基準に基づく評価を行っています。
・水質汚濁防止法において現在規制が行われていない化学物質については、引き続き化学物質環境調査などの必要なモニタリングを行っています。
さらに、水質汚濁防止法に基づく濃度規制だけでは水質環境基準を維持達成することが困難と考えられる広域的な閉鎖性水域に関しては、「水質汚濁防止法」と「瀬戸内海環境保全特別措置法」とに基づいて汚濁負荷の総量を規制する「水質総量規制」が制度化されています。

●水質総量規制

対象:東京湾、伊勢湾、瀬戸内海
規制対象水質項目:COD(化学的酸素要求量)
概要:内閣総理大臣が定めた総量削減基本方針に基づき、都府県ごとに知事が総量削減計画を定める。計画では発生源別の削減目標量および削減方法を明示する。
現在の状況:全般的に水質改善効果は現れているが、COD環境基準達成率の向上には結びつくまでに至っていないため、1996年1月に中央環境審議会水質部会において水質総量規制に関する答申が行われ、この答申に基づき環境庁では総量規制基準の強化に取り組んでいます。

水質保全に向けたその他の取り組みとして、以下のような法制度が策定され推進されています。

「特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する特別措置法」
水道水からトリハロメタンなどの有害物質が検出された例もあることから水道水および水道水源水域の水質の保全を図るためにとりまとめられたもの。

「瀬戸内海環境保全特別措置法」
閉鎖性水域であり、産業や人口の集中に伴って水質汚濁が急速に進行した瀬戸内海の環境を保全するために、当初は時限立法(期日を限った法律)として制定(1973年)された、のちに新たな施策を加え1978年に恒久化されたもの。

「湖沼水質保全特別措置法」(湖沼法)
水質環境基準の確保が緊急の課題となっている湖沼を指定し(指定湖沼)、総合的な対策を講じるために策定された法律で、水質汚濁防止法の規制に加え特別の規制措置を導入したものとなっている。現在、霞ヶ浦や琵琶湖など10湖沼が指定されている。

どうすればいいの

現在の水質汚濁の状況を考えると、工場や事業所などから出される排水だけではなく、各家庭から出される排水(生活排水)の影響が無視できないほど大きくなってきています。そのため、私たちの身近な部分でやらなければならないことは多く、その水質保全に向けた取り組みが非常に大きな意味を持つようになっているといえます。

●生活排水の汚濁負荷低減のためにできるこ

洗剤・石鹸は適量に
天ぷら油はできるだけ何度も利用し、捨てるときは直接流さないようにする。
一度にまとめて洗濯する
塩素系の漂白剤はなるべく使わないようにする
水切り袋で生ゴミを流さないようにする

<参考>節水のすすめ

水道を使っているとき(特に歯を磨くときなど)に水を流しっぱなしにしない
水洗トイレの“音消し流し”をしない
洗濯には風呂の残り湯を使う

身近な話題

●全国水生生物調査

カゲロウ、サワガニなど河川に生息する水生生物は、水質汚濁などの影響を受けるところから、そこに生息する水生生物を用いてその水域の水質を判定することができます。
このような水質の判定方法は、一般の人にも分かりやすいものである上、高価な器具や化学分析のような特別の技術を要しないことから、誰でも調査に参加できるという利点があります。
さらに、調査を通じて身近な自然に接し、水質の状況を知ることにより環境問題への関心を高めるよい機会となります。
このため、環境庁では、水生生物による水質判定のマニュアルである「水生生物による水質の調査法−川の生き物から水質を調べよう」を作成し、全国の都道府県を通じて市民の参加を呼びかけ、1984年から全国の河川において「水生生物調査」を実施しています。

●名水百選

1985年3月に環境庁は、日本全国に存在する清澄な水について、優れたものの再発見に努め、国民一般にそれらを紹介し、国民の水質保全への関心を呼び起こすとともに、また、良質の水資源、水環境の積極的な保護への参加を期待して「名水百選」を選定しました。
その後、この「名水百選」が国民の間に広く関心をもたれ、水環境の保全・保護活動が一層盛んになってきています。

●生活排水対策の推進

 炊事、洗濯、入浴等の人の日常生活に伴い排出される生活排水は、公共用水域の水質の汚濁の主要な原因の一つとなっています。
 このため、水質汚濁防止法では生活排水対策の総合的推進に関して次のような規定を設けています。

1.生活排水対策に係る行政の責務の明確化
 市町村が生活排水処理施設の整備、生活排水対策の啓発等の実施を最前線に立って進めるほか、都道府県は市町村が行う生活排水対策の総合調整の役割を、国は知識の普及、地方公共団体が行う生活排水の援助の役割を担うことを明らかにしています。

2.生活排水対策に係る国民の責務の明確化
 国民の責務については、何人も公共用水域の水質の保全を図るため、調理くず、廃食用油等の処理、洗剤の使用等を正確に行うように心がけるとともに国または地方公共団体の生活排水対策の実施に協力することを法律上明文化し、また、生活排水を排出する者は生活排水の処理に資する設備の整備に努めなければならないとの規定を設けています。

3.生活排水対策の計画的推進
 生活排水対策の計画的推進については、水質環境基準が確保されていない等生活排水対策の実施が特に必要であると認められる地域を生活排水対策重点地域として都道府県知事が指定することとし、指定地域内の市町村は、生活排水処理施設の整備、生活排水対策の啓発を柱とする生活排水対策推進計画を策定し、それに基づいて対策を推進することが規定されています。

4.総量規制地域における排水規制対象施設の拡大
 総量規制に係る指定地域における排水規制対象施設を拡大するため、この地域においてのみ規制対象となる「指定地域特定施設」の制度が創設され、現在処理対象人員201〜500人のし尿浄化槽が指定されています。

 以上の趣旨を踏まえ、一層生活排水対策を推進するためには、下水道、合併処理浄化槽、農業集落排水施設、コミュニティ・プラント等の各種生活排水処理施設の整備を地域の実情に応じて計画的に進めるとともに、各家庭から発生する汚濁負担を削減するため、住民意識の啓発、住民による実践活動の推進等の対策が進められています。