トレーニングコース2012 受講者の声(Jam Session)
6月28日〜30日にかけて行われた玉川大学脳科学トレーニングコースの2日目夜のプログラムには「分野を超えて思考の調和を奏でよう」という趣旨でJam Sessionが行われました。Jam Sessionという言葉は、ジャズ音楽の即興演奏を表すこととして使われているのですが、脳科学に異なる領域・手法を用いて取り組む参加者たちが、即興で一つのテーマを考える機会として設けられたそうです。プログラムでは、心の仕組みを計算論的に明らかにする、をテーマに5つの実習コースから横断的に新たなグループを組んで議論を行いました。
初めに、放射線医学研究所の南本先生より、アカゲザルを用いた研究が紹介されました。実験では、提示された条件でレバーを押すと条件に応じた水の量が報酬として与えられる訓練をアカゲザルに与えたところ、期待される水の量が少ない場合には、レバーを押すことを「拒否」することが観察されました。更に「拒否率」は、「報酬となる水の量」に反比例することが報告されたのです。
この拒否率と報酬の関係は、(1)生物種を超えて観察されることなのか、また、(2)それをどのような方法で確認すればよいかを、グループに分かれて議論を行いました。異なる研究背景を持つ参加者が、それぞれの知見を活かして意見を交わします。霊長類、マウス、魚類から分子レベルまで参加者の日頃の研究対象は異なります。私は普段、ヒトの運動制御をテーマに研究しており、「心の仕組み」を扱う神経心理学や実験動物に関する議論は非常に新鮮でした。
グループ討議の結果は、全体討論で順番に報告されました。先の(1)、(2)については、グループによって意見が分かれていました。それぞれのグループが独自の視点から議論を展開し、実験設定についてもミツバチならどうやって拒否を定義するか、という技術的な議論から、ヒトには報酬を際限なく与えると拒否がそもそも起きない、といった哲学的な側面まで広がりをみせました。講師の先生方も一緒に議論していただき、素晴らしい思考のハーモニーが奏でられたと思います。
脳研究は、今回のSessionのように多岐にわたる手法を用いて、脳の仕組みを解き明かしていく領域です。自らの研究領域に加えて、他領域からの意見をうまく取り込んでいくことが斬新なアイディアを生み、発見へとつながる力になると思います。3日間のトレーニングコースに、そうした研究活動へのヒントになるSessionを取り入れていただけたおかげで、非常に大きな収穫を得られたように感じています。
最後に、お世話になった講師やスタッフの皆様、参加者の方々に厚くお礼を申し上げます。これからの脳科学の更なる発展を願い、このような機会をご提供いただいた玉川大学にこの場をお借りして感謝申し上げます。
(東京大学 山本暁生さん)