トレーニングコース2012 受講者の声(ヒト)
去る2012年6月28~30日、玉川大学脳科学トレーニングコース「ヒトのfMRI基礎実習」に参加させていただきました。私は動物の社会行動を行動薬理学的な手法で研究していますが、人間行動の神経科学的解明にも関心を抱いています。今後の研究の方向性を考える上で参考になればと、本コースに参加を申し込みました。
受講者は学部生から博士課程の大学院生まで、また純粋な興味で応募した方から実際にfMRI研究を始めようとされている方までと、バックグラウンドは様々でした。驚いたのは皆さんのモチベーションの高さです。初対面にもかかわらず、早速神経経済学などの話題で持ち切りとなりました。
1日目は受講者一人ひとりがfMRI実験の被験者となり、村山航研究員が中心となって行った研究(Murayama et al. 2010 PNAS)で用いられた「ストップウォッチ課題」を体験しました。ストップウォッチを5±0.05秒で止めると報酬が手に入ります。頭を固定され、実験者の方に監視された状態で課題を行うのは想像以上に緊張を伴うものでした。文献的には線条体など“報酬関連部位”の活動が高まることになっていますが、果たしてその通りになるのか、期待が膨らみます。
2日目の午前中は講義中心でした。fMRIの計測結果を解析するには、数値解析ソフトのMatlabを用い、SPMと呼ばれる専用のプログラムを走らせる必要があります。そこでまずMatlabの基本的な使い方をレクチャーしていただきました。次いで松元健二先生によるヒト脳の解剖学講義、松田哲也先生によるfMRIの原理に関する講義を受けました。
午後から実際にSPMを起動させ、個人データの解析に移りました。教示いただいた通りにSPMを操作していくと、各自の脳の活動マップが作成されました。私の場合は前頭眼窩皮質に賦活が見つかりましたが、予想通りに線条体が賦活していた方、目立った賦活部位が見つからない方も。fMRIの研究論文を読む際には専ら集団データに着目するので、個人差が大きいのは意外に思われました。
夜にはJam Sessionが開催されました。受講者をシャッフルしてグループを再編成し、1つのトピックスについて議論する催しです。話題提供は南本敬史先生で、モチベーションをいかに定量化するかがテーマでした。参加者のバックグラウンドが多様なこともあり、議論は容易にはまとまりませんでした。結局町田市某所で有志による2次会が催され、先生方も交えて日付が変わるまで語り明かすことになりました。
3日目には集団解析を行いました。少数のデータながらも、中脳腹側被蓋野付近に賦活を見出すことができました。最後に松元先生を始め研究室の皆様が、私たち受講者の矢継ぎ早の質問に答えて下さり、論文からは読み取れないfMRI研究の裏話を多数お伺いすることができました。実のところ私は「ヒトは他の動物と違い、トレーニングしなくても教示一つでタスクをこなしてくれるから実験が進め易そう」と、安易に考えていた節がありました。しかしそれは、人間は教示一つ・実験手続き一つで考えを変える、ということの裏返し。考えが変われば脳活動も変わってくるとのことです。こうしたfMRI研究の難しさ、そしておもしろさをフルに味わった3日間でした。
最後になりましたが、貴重な研究時間を割いて私たちの指導に当たって下さった先生方、ポスドク・大学院生の皆様に心より御礼申し上げます。またコースの運営や事務手続きを円滑に進めて下さった事務スタッフの皆様、協賛・後援企業各位、そして楽しく充実した時間を共にした受講者の皆様に深く感謝いたします。
(北海道大学 小倉有紀子さん)