玉川大学農学部 先端食農学科 システム農学領域・園芸植物学領域 〜田淵ゼミ で栽培管理しているハナショウブの紹介〜全面改訂しました!(2022年11月)
はじめに
花菖蒲は江戸時代にわが国の野山に自生している「ノハナショウブ」から育成された、わが国伝統の園芸植物で、「花の文化財」です。このホームページは2000年から作成を始め、すでに20年以上が経過しました。
当時から大きく変わったことは、研究を継続していくうちに科学的な新知識が次々に蓄積されたこと、写真のデジタル技術の進歩がありました。例えば、江戸系、伊勢系の品種の起源の解明などがその一例です。本学で行った研究は20年以上にわたり、その間に正確な栽培品種の収集と調査、研究総数は膨大なものになりました。その都度、データベース化していますが、その一端をわかりやすい文章にしてみました。特に2022年1月からは著作者である教員が、過去の研究成果をまとめ、かつ自ら写真撮影を行い、科学的なデータを交えて誰にでもわかりやすい解説文を作成することにしました。
一般の方々にとっては、梅雨時になりますとニュースや新聞などで耳にする「花菖蒲」ですが、その魅力をより多く知って頂くためには、これまでの慣例的な知見の他に、新たな客観的な科学的な立場で、正しい知識を得ることも重要です。今後、研究の進歩により知見は変わっていくかと思いますので、その都度、更新することにしました。中には開花状況の年次変化などにより、花容や花色が表現しきれていない品種があったり、勘違いなども多々あるかと思いますが、その点につきましてはご容赦頂ければと思います。
このホームページを使って、花菖蒲の魅力を存分に味わってください。花菖蒲園に行った際に実物と見比べて頂き、この花の魅力にもっと触れて興味を持って頂ければ幸いです。
花菖蒲を観賞するにあたっては、ある程度の歴史、花器官の各部分の名称や用語を知る必要があります。詳細は「花の品種改良の日本史」、あるいはこのホームページの「用語解説」をご覧ください。
花菖蒲は、「歴史を感じながら鑑賞する花」です。現在、非常に多くの品種が育成されていますが、一般的に花菖蒲園などで見ることのできる品種はごく限られています。そこで、本学では大学の研究・教育機関であることを考慮し、維持・保存すべき品種を、「歴史的・文化的・学術的に価値があり、後世に末永く残すべき、わが国の文化財的な価値のある品種」、「野生のノハナショウブの特徴が、現存する品種によく現れている品種」に限定しています。加えて、今後は「花菖蒲園で比較的、目にすることが出来る品種」も順次、加えていくことにしました。
花菖蒲は、育成された時代で分類すると、江戸時代から明治時代に育成された品種群は、伝統的な「古花」として分類しています。しかし、戦時中の難を逃れて昭和になって、日本各地に離散していた品種が一か所に集められ、これらが相互交雑を繰り返して育成された品種群も数多く存在します。これらは、江戸時代に育成された様々な系統、品種の中からより良い品種を得たいために、品種間で交雑が行われた結果、遺伝的に混ざってしまい、かつ交配記録がないので育成地による分類は不可能になっています。
この場合には、育成地の同定は不可能となるため、作者の名前を付して「新花」として分類し、便宜上、花の外観、すなわち花の形の「花容」で何系かを分けることが慣例になっているようです。
本ホームページでは、「古花」は、まさに江戸時代に育成された伝統的な品種群であるため、育成された場所に因んで江戸(今の東京)で育成された品種群を「江戸系」、伊勢地方(今の三重県)で育成された品種群を「伊勢系」、肥後地方(今の熊本県)で育成された品種群は「肥後系」として表記しました。
その一方で、戦後に育成された品種は「新花」として、「古花」とは区別するために花の形態である「花容」で分類することにしました。すなわち「新花(00花容)」として表記することとしました。
上記の「古花」、「新花」以外に、大正から昭和にかけて外貨獲得のため、あるいは個人的な趣味、地域振興のために育成された品種群があります。これらは、歴史的には明治、大正、昭和初期にかけて育成されているので、「例外」として表記しました。「大船」、「アメリカ」、「外国」、「長井」、「野生」の花菖蒲品種、ノハナショウブがそれらに該当します。歴史的、遺伝的な根拠資料として、下図を参照ください(田淵原図・未許可での転載や利用はお断りします)。
なお、写真撮影の方法や文章表現については、人それぞれに個性があり、感じ方も異なります。また、科学的に必要な撮影方法や文章もある程度必要です。ハナショウブの花は品種や気候、栽培地によって異なりますが、一般には、着色した花蕾が開いて、2日目で満開となり花被片が大きく伸長・展開します。3日目には先端部から萎れていきます。その際の形状や色彩の変化は何年見ても異なるものです。一般には、花蕾の段階が花色は濃く、開花して花容が大きく開くと、花の形状は見事に特徴を表してきますが、花色は薄くなっていくようです。
1品種に1枚の写真では日々刻々と変化する花の特徴を表現するのは、非常に困難です。そこで、初めての試みとして、意図的に花蕾の状態や開きかけのもの、あるいは様々な方向から何枚も撮影して掲載しました。これにより、誰でも自由な発想でいろいろな方向から見られるようになることを大いに期待したいと思っています。
監修 田淵俊人
なお、本ホームページは2000年から20年間にわたる学生たちの栽培・管理・研究の結晶でもあります。本学の精神である『子弟同行』を基にして、『扱う植物の栽培・管理ができる研究をすること』、『地球環境から分子レベルまでを幅広い視点で網羅する能力を養うこと』、『園芸文化を形成した歴史を知り、それを活かして新しい目で科学的な視野に立った研究に携わること』および『ハナショウブやノハナショウブの研究を通して、1人の人格ある人間として成長すること』を目標として、日夜、栽培と研究に励んでいます。
その一端として、本ホームページは成り立っています。いずれも学術レベルでの研究成果(園芸学会、国際園芸学会などの科学的な発表・論文)につき、2004年から2022年までに92論文・著書)に掲載され、卒業生たちはそれぞれの分野で社会的に独立して活躍をしています。ここに氏名を記して功績を称えたいと思います(年代順)。
2004年:伊藤誠一・大山貴義・鳥羽啓子
2005年:鈴木和子
2006年:平松渚・渡邊千春・松下芳恵・鈴木和子・富塚裕美
2007年:伊藤和希子・市川祐介
2008年:忠将人・坂本瑛恵・中村泰基
2009年:小熊拓・波多腰拓朗・榎倉麻美・吉田祐
2010年:大坂律子・矢口雅希・萬代有紀
2011年:鳥居保邦
2012年:定延葉子
2017年:唐澤健太・人見明佳
2013〜2022年:小林孝至
2022年:日高慶士
2023年:赤坂ひのき