稲の乾燥(神奈川県川崎市麻生区早野) 学校の帰り道,稲を干している農家の方に会いました.ゲンボー先生は早速インタビューしました.
天気の良い土曜日の午後,前日に刈り取った稲の束を,竹で組んだ干し場にかけている農家の方.
「今日は」
「おー今日は」
「お忙しいのに済みません,ちょっとお話をきかせて下さい」
「あいよ」
「やっぱり,稲は天日干しがいいんですか?」
「そりゃあそうだ,味が違うし,だいいち米がわれないんだよ」
「お米がわれる?」
「コンバインで刈り取ると,わらはバラバラに切っちまうから,どうしても米は機械で乾燥させなければならね〜.そうすっと一晩で乾かすだろ,急に乾かすからもろくなるんだ」
「おじさんちのは米がわれないんだ・・」
「そう,だいたい15日間かけてゆっくり乾かすから,米に無理がない.だからわれないのさ・・しかもうまい!」
昔から農家では刈り取ったお米をこのようにして乾燥させていました.今はコンバインなど大形機械で刈り入れるところが多くなり,稲束の乾燥風景もだんだんと珍しいものになってきました.
「わらはどうするんですか?」
「わらはなあ,畑にしくのさ.畑の乾燥をふせぐにゃあこれが一番さ,だいいちビニールみて〜にくさらないということがない.自然にかえっちまうんだ.いいだろ?」
干場を作るもう一人の方.慣れた手付きでどんどん作って行きます. これが完成した形です. ところで,稲束のかけかたにはコツがあります.半分に割った稲束を竹にかけるとき,右左と交互にずらしながらかけていくのです.
ほらね,このように逆にねじった稲束をかけていくんです.こうすると乾きが良いのだそうです. 収穫したお米は10アール(1反)あたり4キロの「種もみ」を残して,60キロごとの袋に籾米のまま保存されます.このおたくでは必要に応じて脱殼機で玄米にして,消費者に直接販売するのだそうです.
政府米や,スーパーにおろせば3分の1の値段になってしまうそうですが,「美味しいお米」を買いたい人に直接売ると高い値段で売ることが出来ます.これも食糧管理法が改正されたからできることなんですね.おじさんのところでは10アール(1反)あたり8俵〜9俵のお米がとれるのだそうです.約500キロですね.おじさんちの田んぼで作っているのは「もち米」でした.もち米の値段は普通のお米より高いですから,それなりの収入になると思います.
こんど皆さんがお米やさんやスーパーにいった時「もち米」の値段がいくらするか調べてみて下さい.
ところで,水はどこから来るの? この田んぼがある川崎市の早野付近には鶴見川が流れていますが,川の水面より高い位置にあるこのあたり一帯の田んぼは江戸時代」に作られた「ため池」によって灌漑(かんがい=農業に必要な水を得ること)されていました.
「どじょう」がいるかな?それとも「ざりがに」かな?親子で楽しむこの水路は江戸時代から続いています. 今は公園の池ですが,実は江戸時代からの「ため池」.早野の田んぼの水はここから流れていきます. 早野一帯の「ため池」分布です.ほとんどが江戸時代〜明治時代に谷の出口をふさいで作った池です. 豊かに実る早野のお米!これも「ため池」のおかげ・・・さあ,あとは稲刈りと乾燥だ! 何気なく見ている稲刈りの風景ですが,こうして調べてみるとずいぶん新しい発見がありますね.稲の乾燥にも長い歴史につちかわれた技術がありました.
そして,ため池や水路を作った人がいたからこそ,今日この地域でお米を作ることが可能になったのですね.これらの池の一つ一つ,水路の一本一本に「作ったのは誰?」「どうやって今日まで続いてきたの?」という歴史があるのです.
君たちの町や村にある「田んぼ」にも必ず,こうした歴史があります.こんどぜひ調べてみて下さい.
制作・著作 玉川学園 多賀譲治