今回私達が企画した『妖蛾・妖画展』は、人の心が紡ぎ出した美と、自然が紡ぎ出した美とを同じ空間に並べてみようとする試みの二回目にあたります。
そのきっかけは、一年ほど前のある日、姪から「伯父さんと一緒に二人展をやりたい」と誘いを受けたことでした。それも「蛾」をテーマとして。血は争えないとでも申しましょうか。手ほどきをした覚えもないのに、いつの間にか姪は虫めづる姫君に成長していたのでした。
多くの人々にはなかなか親近感をいだいてもらえない蛾達ですが、日本には4千種以上も棲息しているといわれています。その色合いや模様は、渋いながらそれこそ千差万別。その蛾の美しさの虜になって、二年程前から夜の高尾山に毎週通っているこの頃です。折も折、今年は年男で還暦の節目を迎えます。そこでこれを機会に蛾の美しさを少しでも多くの方々にお伝えしたいという気持ちが湧いたしだいです。蛾は一匹一匹にもそれぞれの味わいがありますが、集団にすると思いがけない美しさが現れ出たりします。
身内の展覧会のことでもあり、まさに自「蛾画」自賛にはなりますが、御高覧いただければ幸いです。
齋藤 秀昭
私達は困難や危険だと察することのできる事柄にあえて触れたいとは願いません。でも心の奥底では、絶対にやるはずのないことに密かに好奇心を抱いてしまうこともあるでしょう?私はそんなときの気持ちを発散(?)したり、あるいはよりマイルドに生きる手段として創造にかかわってきたような気がします。絵の世界において奇抜な挑戦や非現実世界を覗き見るといった疑似体験をするのです。
私の絵との関わり方はこの点においてはほぼ変わることなく今日に至っています。当然、年令・環境・新たな人々との出会いなどによって好奇心、興味の度合いやその内容も変わってきました。そしてその移り変わりにしたがって、表現に最適な手段やマテリアルも自然と形を変えてきています。私の中のそのような変化を知らない人には、それぞれの時期に生み出される作品が完結したもののように錯覚を与えるかもしれません。また、私自身全く別の生き物に生まれ変わってしまったのかと。まるで蛾のように。
でも、これらは全て私からうまれでたものという点では偽りのないものたちです。一個人の同じ哲学のもとに創られた、ストーリー性をもつ一片であると考えれば、おかしな存在は何一つありません。すべてがつながりをもったものなのです。このような背景のもとに、この『妖蛾・妖画展』は組み立てられました。
変態をくり返す「蛾」の一生とわたしの「画」。そしてそれだけではなく、今回の展覧会に向けては、繊維の流れを生かし、まるで蛾の羽のような触感に仕上げた Fiber Arts を特にとりあげ、その色彩やテーマも蛾とうまく調和するように努めてみました。
「蛾」と「画」は同じ音をもちますが、一緒に展示される場はあまりないと思います。このユニークな空間をお楽しみいただけたら幸いです。
蛾の変態というものは私達人間からみると奇妙なものです。アオムシの一生・サナギの一生・そして誰もが蛾だとみてとる成虫の一生と、時を経るにしたがって、その姿形だけでなく、食物や行動様式においても大きな変化をみせます。そのため、その各ステージが独立しそれぞれの一生が完結したものであるかのように思えます。でも、それが一つの命をもつ蛾の一生ですよね。私の創作というものを考えてみるとき、そのような蛾と何か共通するものがあります。
なお、このイベントを実現させるために御協力いただきましたたくさんの方々に御礼申し上げます。
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